【2】イギリスで一番のドライブコース

スコットランド旅行を記したエッセイ。毎週木曜日、日本時間の午後9時くらいに更新。全10回ほどの予定。


僕は興奮冷めやらぬまま、検索してみた。

「世界 絶景 ドライブ」

すると、いくつかの有名な道が紹介されている。ステルヴィオ峠、フルカ峠、アトランティック・オーシャン・ロード。あるいはドライブというと、アメリカをかつて横断していた、ルート66を思い浮かべるかもしれない。

でも、そうじゃない。僕は自分のミスを認め、検索用語を変えてみた。

「スコットランド ドライブ」

 

…信じられない。僕がたった今運転してきた道は、たった一記事で紹介されているだけだ。それも、ざっくりと。文章も4つしかないんじゃないか。旅行ブログでも、書かれているのはGlen Coe(グレンコー)周辺が多い。名が知られているのは、スコットランド北海岸をグルっと周る「North Coast 500」か。いやはや、道理で車の数が少なかったわけだ。

実際、ここは僕にとっても、偶然通ることになった道だった。

 

詳しい経緯はここでは省くが、僕はアバフェルディ(Aberfeldy)という町で、2日目の夜を過ごした。ウィスキー好きなら、名前を聞いたことがあるかもしれない。近くに町の名前を冠したウィスキーを作ってる蒸留所がある。

本当はネス湖へ行くつもりだった。
未確認生物・ネッシーがいると噂の湖だ。多分小さい頃、絵本で知ったんだと思う。もしくは、クレヨンしんちゃんの世界の国々を紹介する本で知ったのかもしれない。湖面から首か何か、細長い部位をニョキっと出している写真は、あまりにも有名だ。

だから、ずっとネッシーはこの目で見てみたかった。

けどまあ、それは中々確認が難しいらしいので、とりあえずネス湖に足を運んでみたかった。幼少期に聞いた話の舞台を、大人になって訪れることができれば、なんて嬉しいことなんだろう、と。

アバフェルディからネス湖までは、かなり道のりが悪い。道路状況が悪いのではない。道がないのだ。

ネス湖までなるべく近道で行こうとすると、ハイランドでも数少ない、幹線道路ばかりなのである。それも、わざわざ大きく迂回してまで通らなきゃいけない。まっすぐ通った道がない。

正直、走りたくなかった。

海外旅行中のディナーに、マクドナルドのダブルチーズバーガーセットを避けたいのと似ている。ビッグマックも嫌だ。そこで足を組みながらあーだこーだと呟きながら地図を見直してみると、そう大きく変わらない所要時間で、スペイサイドへ行けることが分かった。ウィスキーの”名所”だ。

Google Mapによると、少なくとも道はほとんどは白線、つまり幹線道路じゃない。

なにしろ、今回の旅のメインテーマは「ドライブ」と「ウィスキー」である。
異論はなかった。

 

 

違いを感じだしたのは、アバフェルディからも近い、エドラダワー蒸留所の付近を過ぎたあたりからだった。

A924を東に進んでいくと、標高がどんどん上がっていく。アップダウンを繰り返しながらも、登っていく。教えてくれるのは、反比例的に低くなっていく植物の高さ。高くそびえ立つ木々は、いつしか背丈の高さほどの草に変わっていた。

「何かあるのですか?」

あるいは、そう尋ねてしまうかもしれない。回答に少し困る。むしろ、何もない。あるのは大西洋のように広がる背丈の低い草花の絨毯と、その地形に沿うように流れる、冷たい鼠色の帯。幅は片道一車線分。奥には山がそびえる。

ここを走ると、誰でも気分良く楽しめると思う。牧歌的な風景は、どこか心を和ませてくれる。昨日彼氏とケンカしたとか、この前ガチャひき忘れたとか、あるいは紅茶を淹れる前にミルクいれるやつは許せないとか、何を思っていようと「まあどうでもいっか」と思わせてくれる。

 

しかしこれは、長い道のりの始まりにすぎない。

途中、B950に折れ、そこからA93を北上しよう。
高台にある小さな村を、スピードを落として通過する。イギリスでは総じて、このような村はかわいさを放っている。古くからある村なのだろう。歳入がとても高いとも思えない。人口過疎に悩んでるかもしれない。それでも、そんなことおかまいなしに、もしくは感じさせないように、輝いている。そこに、おこがましさはない。BMC時代に作られたミニのように。

このような高原は、他の動物達にとっても、気持ちの良いところである。羊がいて、馬がいて、牛がいた。牛がこう、集まって同時にガブガブと水を飲んでいる風景は、少し奇妙でもあったが。

一部の羊は、檻の中にいる不都合さに気づき始めていたようだ。

A93を北上しだすと、すぐにケアンゴーム国立公園(Cairngorms National Park)に入る。総面積は4528km²である。なんとなく形似てなくない?と思い調べてみると、山梨県の面積は4465km²。やっぱり似ていた。A93は、この山梨県のような国立公園の右下を、えぐり取るように通っている。

 

山の合間を縫うように走っていく。

前後左右に広がるなだらかな斜面は、どこか気持ちを安らげてくれる。

少し登ったところで後ろを振り返ると、今来た道が、その近くの小川と一緒にずっと先まで見渡せる。木はない、ここはハイランドだ。

「ここがハイランドだ。」

 

場所によっては、白線がない。コンクリートが、ただただ敷かれている。丘の頂上から周りを見渡すと、前方から対向車が来ていないこともうかがえる。

中央線がないところも多々ある。

別に勧めるわけではないが、2台通れるような道の道幅を広く使いつつ、対向車とぶつかる心配をせずに走れるのは、かなり楽しい。例えるなら、コーラにメントスを入れてしまうような感覚に近い。

そしてこの道は、とても走りやすい。路面がそう荒れてないのだ!(スコットランドでは珍しい。)A道路、つまり日本風に言えば、国道にあたるこの道。一応は主要道路なのだろうか?それにしては、車の数がまばらであった。いくら平日とはいえ、夏のスコットランド。ドライブ目当ての人がもっといてもいいと思うのだが。

スキー場以外に、特に何かがあるわけではない。ただし、いつまでもスピードを出していると、大事な物を見失っているかもしれない。

何匹の羊がいたのだろう。
恐ろしい数の羊が、道路の右側を行進していた。野生なのか。放牧なのか。野生だとしたら、あまりにも多すぎる。一部は道路にもはみだし、ぼーっと突っ立ってたりする。彼らにとって、道路はただの、草の生えてない場所だ。

列を作って、歩いている。
羊は比較的、扱いが楽だという。牧場から建物内に移動させたい時、最初の一匹さえ移動させ始めれば、あとの数百匹は勝手についてくる。それでもまあ動きが遅いやつもいるもんで、犬はそういうのを追い出すように動く。羊牧場のおっちゃんが「小学生二年生のガキ共よりも、羊を遠足に連れていく方が簡単だよ」と言っても、僕は不思議ではない。

もちろん、僕が近づくとすぐに逃げていくのだが…。羊マスターへの道は遠い。

ちなみに今回眺めていて気付いたのだが、羊たちは適当に歩いているように見え、4匹~7匹単位で、揃って歩いていることが多かった。家族なのだろうか?友達同士?羊たちは、どこへ向かっていたのだろう。

 

Crathieというところで、数少ない曲道を迎える。この辺りは少し標高も下がり、楽しかったドライブもここで終わりかと感じるだろう。しかし、もしかしたらここからが本番、あるいは二回戦とも言える。B976へ入ろう。

B道路は、A道路よりもランクの低い道だ。国道から県道へ入ったと、僕はいつも捉えている。制限速度は40m/h(約64k/h)。たいてい細く、曲がりくねっている。

「イギリスの美しい景色はB道路にある」

以前人づてに聞いたこの言葉の、その正しさを思い知る。

A93を走っていた時よりも、道はワイルドさを増す。ガードなどという気休めはないし、中央線もたいていない。車1台しか通れない幅を、恐る恐る走っていくしかない。油断してると、たちまち、対向車と出会い立ち往生だ。

アップダウンは”かなり”激しい。”かなり”と言うのは、”ローラーコースターのように”という意味だ。ロータスみたいな軽い車で飛ばすと、本当に飛んで行ってしまうかもしれない。小さい車では、弾き飛ばさそうだ。僕の1.5Lのスズキ・スイフトでも、スピードをうまくのせないと上り坂では苦戦する。以前乗っていたVWのルポだと、いや、思い出したくない。(以前、登り坂でエンジンが壊れたのだ…。)

 

それにしても、素晴らしい道だ。

「ハイランド」

この言葉を具現化するように、ケアンゴーム国立公園はたたずんでいる。心なしか、雲との距離が近く感じる。

スペイサイドにあるマッカラン蒸留所に到着した時、僕は満足感の裏で、水泳の後のような疲れを感じていた。

 

第二回あとがき

ドライブを目的の一つとしてスコットランドへ行ったのですが、いやはや、3日目でもう十分楽しんだんじゃないか?と思うほど、充実感を味わいました。以前アイスランドでもドライブしたのですが、正直、ハイランドの方が楽しかったです。アイスランドは非日常的で魅力的だけど、あまりにもまっすぐなので…。笑 (あれはあれで超開放的だけど。)

今回の道のりはこんな感じ。
綺麗なところがあれば停まって(としてたら何度も停まることになる)、ドライブの後の予定は晩御飯のみ、ぐらいが良いと思います。あとは、雨が降りすぎないことを祈って。。。

次回はもうひとつ続けて、スコットランドでのドライブのことを。ただし、今度は海岸沿い。

以上、わたぽんでした。ほなね!



わたぽんの簡単な自己紹介

わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら

ブログ「わたぽんWorld」について

僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!

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プロフィール

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高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでの1年インターンも獲得。現在は卒業し、日本でF1から離れ生活中。 詳しいプロフィールはこちら


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