【3】NC500 – スコットランドが送るイギリス版「ルート66」の答え

スコットランド旅行を記したエッセイ。毎週木曜日、日本時間の午後9時くらいに更新。全10回ほどの予定。


「ルート66」と呼ばれる道がある。

走ったこともなこの目で見たこともないけれど、3755kmにも及ぶかつてのアメリカの東西横断道は、なにかと名が通る。砂漠の中を永遠のように駆け抜ける、いわば、ドライブロードの象徴的存在。ディズニー映画「カーズ」では、ルート66沿いの町、ラジエータースプリングスが舞台になっていた。

そんなアメリカが誇る世界的ドライブロードに対し、イギリス、スコットランドでは妙な対抗意識があったのかもしれない。(よくある)

スコットランドにだって、良い道はたくさんある!
てか、もっとスコットランドの奥地にも観光客呼ぼうぜ!

誰かが声高に叫んだのかもしれない。
2014年、そうして生まれたのが、North Coast 500 miles(NC500)である。

約500マイルあるから、NC500。
ここでのドライブも、また価値観を(ちょっとだけ)変えかねないような経験だった。だが、前回書いたハイランドでのドライブとは趣が異なる。じゃあどんな所だったのか?英語にぴったりの単語がある。

“Spectacular”

“壮観な、目を見張らせる”という意味。しかしspectacularと言われた方が、しっくりくる。すぺくたきゅらー。

 

多くの人は、スカイ島付近(上写真地点B)から時計周りに、あるいはInverness辺り(地点F)から北側に向かって、走り始めることになるだろう。どちらから走りだすかによって、第一印象は変わってくる。

時計回りに走りだすと、まず「よしよし。」と頷きたくなる。ネットで見つけて初めて来た店が、とりあえずは想定通りのたたずまいをしていた時の反応だ。ひとまず安心。

海沿いを走ったり、少し高いところを走る。テンポ良くアップダウンを繰り返す。日本の山道を思い出し、少し懐かしく思った。

 

一方、Invernessから半時計周りにスタートすると、そのような安心感は、感じられない。むしろ、驚くだろう。「車が多い。」そこで周りを見渡して、大丈夫なのか?と14回ほど尋ねた頃に、やっと「快適かもしれない」と思い出す。

事実、快適なのだ。

車通りは相変わらず少なくないものの、北へ進むほど減っていく。右手奥には、海が見える。(北海だ。)間には綺麗に整備された牧場や麦畑が広がり、ポツポツと、農小屋が建っている。

少しアクセルを踏むと、車はスムーズに加速する。比較的平坦な道の路面は、(イギリスクオリティを考えると)綺麗に舗装されている。晴れ空の見える日には、お手本のような気持ち良さが続く。社会科の資料集で見たかもしれない。

 

ただ、どちらから周るかは、実はあまり重要なことではない。

第一印象で物事の判断をなるべく済ます人がいるが、NC500においては、それは間違った判断となるだろう。走り終えてから残るのが第一印象とは全く別のものだとしても、なにも不思議ではない。むしろ、それがNC500の魅力なのだ。

 

 

「Ullapoolまでの景色が綺麗なのならば、そこから北の道のりはまさに鳥肌ものだ。」

とあるイギリスのガイドブックに書かれている文言だ。

西海岸にある町、Ullapool。そこより北は、よりワイルドになる。車一台分の道幅がとたんに増える。ボルテージは上がる。さあ、ここからが本番だ。

細い曲がりくねった一本道は、万華鏡のように七変化する。

海沿いを駆け抜け、風になびく草原を抜け、”ぽっこり”とした山に囲まれた湖が姿を現す。水が川として流れだしていると、最低限の橋がかけられている。最低限とは言え、たいていが自然の中にぽつりと置かれているので、美しいものが多い。鉄道模型のジオラマで、これらの橋を一つ一つ表現してみたいほどだ。とても綺麗な情景になる、きっと。

 

その中を走る時は、マニュアル車でなければいけない。

登り坂や切り立った崖の上にあるコーナーを、一つ一つ攻略していく。しっかりとシフトダウンをし、必要なだけ速度を落とす。そして、またギアを一つ上げる。クラッチとアクセルを、注意深く合わせていく。ダイヤルを回し、一切のノイズが入らない周波数を探し出すように。あるいは適切な和音をピアノから引き出すように。僕は楽器の演奏が下手くそだが、ドライブしてる時の気分はいつも、リズミカルに鍵盤を弾くピアノ奏者でありたいと思っている。

うまくいくと、自分でも気持ちよくなるのが分かる。

オートマティック車では、そんな感覚は味わえない。ペダルは消え去り、黒鍵も取り去られたピアノのようなものだ。NC500の楽しみは1/50になる。本当です。

北海岸を走るにおいて、一つ絶対に守らなければいけないことがある。焦らないということだ。

車が一台しか通れない道がずっと続く中、スピードを出すことができない。キャンピングカーなんかがいると、結構詰まる。そもそも速く走れないのだ。

それに、周りは息を飲む絶景なのである。
波が打ち寄せる海岸のそのすぐそばを、走っていくのだ。あるいは氷河が溶けてできた湖に両側を挟まれつつ、目の前の丘を駆け上っていくのだ。たまに後ろからあおられることもあったが、何をそんなに急ぐというのだろうか?スコットランド北海岸において、焦りや速さというものは、最も相性の悪い類のものである。

しかし、あえて例外を挙げておく。
北海岸から西海岸へ移行していく辺りだったと思う。大雨で前を見るのもやっとというような中、数少ない反対車線のある場所で、物凄い水しぶきを上げながら過ぎ去っていった車がいた。いや、あれはトラックだ。すれ違う時にパッと見えたのだが、でかでかと書かれていた文字は、おなじみの青と赤。スーパー”テスコ”のデリバリートラックであった。

 

 

僕が西海岸を走った時はあいにくの大雨だったのだが、それはそれで、神秘的なドライブウェイを醸し出してくれた。

それとは対照的に、東海岸と北海岸を走った日は、雨のほとんどない日でもあった。洞窟に訪れた時なんかは、晴れていたほどだ。(この地域ではとても運が良いと言える。)

NC500では、その距離を考えると、観光スポットと呼べるスポットがかなり少なく感じる。しかし、この洞窟にだけは、絶対に立ち寄ってほしい。

「Smoo Cave」

海岸に突如現るこの洞窟は、近くの駐車場からすぐに降りていける。

観光におすすめされる洞窟というのは、往々にしてでかく、奥が深く、複雑だ。それに比べると、Smoo Caveが僕達に魅せてくれるものは非常にシンプルだ。

滝だ。

パックリと開いた入口から、右側にそれた少し狭い穴をくぐると、滝はすぐに見えてくる。ザーーー。囲む岩が、音を反響させている。

この水はどこからやってくるのか?
かなりの水量である。しかし、気軽に見れるのはここまで。この水の出どころは、そりゃもちろん陸地の方から海へ流れていく水流の一つなのだが、ぜひ滝の上側も見てみたかった。

薄暗くライトアップはされているものの、正直言って、薄気味悪い所である。できれば夜に訪れたくはないなとも思ったが、よく考えれば、昔の人は観光用のライトアップさえなかったのである。

 

一般的に名が知られるようになったのは、小説家のウォルター・スコット氏が1814年に出版した、北部スコットランドの探訪記による。比較的新しい話だ。しかし記録上では、1760年から残っている。

ある日、この付近の住民が、たまたまこの洞窟を見つけた。

見つけたとは言え、当時はおぞましいものだったようだ。暗闇の奥から響く轟音。男は怖気づき、自分は最初は入ることができなかった。「悪魔が潜んでいる。」その仮説をテストするため、犬を洞窟内に入れてみたところ、一目散に出てきたという。

ここは好都合の場所だ。彼は確信した。つまり、連続殺人の遺体遺棄場所として。

こんな北の果てで連続殺人が起こっていたという事実自体がおぞましいことなのだが、その最も重要な役割を果たしていたのが、あろうことか、このSmoo Caveだったのである。事実、警察が遺体発見を試みて調査を行おうとしたものの、乗っていったボートは突然現る滝にに飲み込まれてしまう、ということもあったそうだ。

いやはや、恐ろしい場所である。

幸い、今は観光地となっているが、場所柄、訪れる人はそう多くない。是非、足を運んで、一人でその滝の姿を見てほしい。

(洞窟の周りには、少しだけ散策路もあった。近くにはイギリスのAward Winning Beachもある。ガイドブックには載らない絶景ビーチもある。寒くて海には触りたくもなかったが、ビーチ沿いでの車中泊は、かなり非日常的であった。また別記事で。)

 

第3回あとがき

初日から高速道路、ハイランド、そしてNC500の東海岸(僕は反時計回りで走りました)と、ビュンビュン走ってました。初めての彼女相手に、あれもこれもと焦っていた頃のように。すると否応なしに疲れがたまってきてたので、北海岸を走る日には、思い切ってかなりのんびりとしたペースでドライブ。羊を見たらすぐに止まり、海を見たらカメラを構える。窓を開け、心地よい風を受け入れる。これが大正解。

大自然の中には、隠し玉もありました。

ハンサムなハイランド・キャトル、牛です。なんとなく、流川という名前が合いそうです。

羊はたくさんいるのですが、ガソリンスタンドやお店の類は本当にまばらなので、そこだけはご注意を。

以上、わたぽんでした。ほなね!



わたぽんの簡単な自己紹介

わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら

ブログ「わたぽんWorld」について

僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!

Related post

Comment

  1. No comments yet.

  1. No trackbacks yet.

プロフィール

わたぽん(@wataponf1_uk)

高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでの1年インターンも獲得。現在は卒業し、日本でF1から離れ生活中。 詳しいプロフィールはこちら


Twitter Facebook note

おすすめ記事

アーカイブ

Return Top