【9】Tarbert – 哀しい村の展示と黒ヤギのいる城の跡

スコットランド旅行を記したエッセイ。全10回ほどの予定。毎週木曜更新…のはずが、全回から4ヵ月経ちました。前回のエッセイ:

【8】静かなティールームで誰にも話したくない時がある
スコットランド旅行を記したエッセイ。毎週木曜日、日本時間の午後9時くらいに更新。全10回ほどの予定。 書くまでもないかもしれ...

 

Tarbert(ターベルト)という町がある。

と書き出したが、実はここは村とされていた。

 

スコットランドの西海岸には無数の半島なり島なり、あるいはただのクネクネとした海岸線がある。そういえば氷河が削れることによってできたフィヨルドに似ているなと思ったが、ここスコットランド西海岸にも、過去には氷河があったという。山はないものの、起伏が豊かでドライブにはもってこいの場所でもある。

Tarbertはそんな半島の一つに位置する村。半島をほぼ分断するように入った海の切れ込みを、かろうじて阻止するような形で、この村は形成されている。

そんな地理的恩恵のおかげで、小さな村は自然の港に恵まれた場所となった。港にはヨットや小さな漁船がたくさん停泊している。ガイドブックには小さく、「漁業が盛ん」と書かれていた。海岸沿いの道は村のメインストリート、あるいはプロムナードと呼ぶことができるかもしれない。道と海の間の小さなスペースは無料駐車場になっていて、少し間違ってバックしすぎたら、海に簡単に落ちることができる仕様である。スコットランドの海。夏でも決して入りたくない。

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どこか静かな村

車を停め町をぶらついてみると、店は一通りあることが分かる。Coop(生協スーパー)があり、パブがあり、カフェがあり、ベーカリーもある。スコットランド観光案内所もあった。みんな海岸沿いにあるのだから、一息つくのには良さそうだ。

時間は夜7時。
夏なのでまだまだ明るい時間だが、休暇シーズンということもあり、ガイドブックに書かれているような海岸沿いのお店は、満員になっているところもあった。しかしこの町にはどこか、哀しさがあった。妙に静まり返っていたというか、騒々しさというものが欠けているような気がした。店の中にいる人達はまるで、博物館の展示の中の世界に見える。展示の中で、人々は食事を楽しみ、談笑し、どこかへと消えていく。港特有の開放的な雰囲気とは対をなすように、プロムナードは寒々とした様子を醸し出していた。

道の反対側を見ると、移動式遊園地があった。誰も利用者はいない。電気が切られている遊園地は、具現化された虚しさのようだ。ただ今日は切られていたのか?あるいはこれこそが、この町の縮図なのか?海が切り込んでくるようにしてできた港では、船が静かに上下に揺れていた。

突然、この町のことが気になりだした。

町全体にまとわりつくこの哀しみはなんなのか?海沿いで立ち止まるとすぐにmidge(ミッジ:蚊のような虫)にたかられるので、海岸沿いに並ぶパブの一つに入って、少し調べてみることにした。

 

ガチャン。

“Public Bar”と書かれた木の扉を開けると、そこにはテンプレートに当てはめたようなパブが現れた。もちろん2018年のテンプレートではなく、1970年頃のテンプレートだろうか。もし第二次世界大戦時からほぼ変わっていないと言われても、僕は納得する。いわゆる労働者階級向けの雑多な飲み屋なのだが、既に別の場所で晩御飯は食べていたので、おなかはすいていない。少し飲めれば十分だ。

イングランドの多くのパブでは、そのパブのオーナーが選び抜いたエールビールを推していたりするのだが、ここはさすがスコットランド。幾つかの定番のビールの後ろには、しっかりとシングルモルトスコッチウィスキーの瓶が並んでいた。スコッチウィスキーの聖地・アイラ島に近いということもあってか、ラガブーリンやアードベッグ等のアイラウィスキーが並んでいる。他にはアランモルトというウィスキーなんかもあった。これは半島を挟んでアイラ島の反対側にある、アラン島の”ご島地”ウィスキーだ。適当に入ったにしては、その土地の個性が出ていて当たりだったかもしれない。

 

しかし、それにしても人はまばらだ。

多分、入った時間の問題だったのだろう。その店の二階部分はレストランになっており、ハイシーズンもあってか満席だった。しかしまだ夜も早い時間とあっては、バーの方は空いていて当たり前。それが余計に、店内の古びた様子を照らし出していた。Tarbertの哀しみは、パブの中にもあるようだ。

 

古びた店内はきっと、青白い蛍光灯のせいだ。

古いパブでは時々見かけるのだが、照明が青白くなると、途端に店の雰囲気が暗く、そして少々不気味になる。その店ではバーカウンターにだけ蛍光灯が使われていたのだが、年季の入った木造カウンターやイスは、青白い光の元、くたびれた様子だった。ディズニーランドで乗ったホーンテッドマンションのアトラクションを思い出してしまったが、黙って適当なビールを一パイント頼んだ。

 

店内はバスケットコート半面分くらいだったと思う。真ん中に柱があり、その横にはビリヤード台も置かれている。その二つを取り囲むように席が並んでいて、窓際のソファー席に座れば、向こう側は今歩いてきたプロムナード。柱やバーカウンターの端には、テレビ画面がある。競馬が放映されており、それを見ている常連らしき客達が盛り上がっている。さながら、場末のパブの日常という感じ。これもまた、展示物のようだ。

「競馬を見て盛り上がるPublic Barの様子 – 1969年」

 

しかし盛り上がっているのはあくまでバーカウンターの周りだけで、それ以外は奇妙なほど静かだ。そういえば、BGMというものがかかっていなかったようである。あるいは、店の端から聞こえてくる競馬の実況音声が、かろうじて聞こえてくるだけ。

ゴクリ。
静かに黙って、ビールを飲む。

スマホの画面には、Tarbertのwikiが開かれていた。

 

 

“The History of Tarbert”

この村はかつて、ニシン漁で栄えた村だったそうだ。836年には既にこの村でのニシン漁についての記載があり、歴史的に見ても長い港である。しかし今となっては、過去に例を見ないほどの漁獲量不振に陥っている。皮肉にも、それはTarbertの漁師によって編み出された漁法によるものでもある。

 

トロール漁業という単語を聞いたことはないだろうか?

小学校、あるいは中学校の時に習ったということを、覚えている人もいるかもしれない。大きな網を船で曳くことによって、海中の生物を根こそぎすくい取ってしまう漁法だ。このトロール漁法は、1830年代にTarbertの漁師によってもたらされた。もちろん、ニシンの漁獲量は飛躍的に上がった。
しかし何事にも、限度というものがある。それがゆえに、海中のニシンの数は劇的に減っていった。

自ら生み出した新しい漁法により、Tarbertは自らの生命線であった漁業を狭めていったのだ。

 

どこか親しみのある話だなと思ったら、北海道の留萌や増毛に似ている。これらの町もニシン漁で栄えた町だったが、漁獲量が落ちた今、かつての栄光は消えてしまった。旅行で訪れたことがあるが、当時、既に留萌本線一部廃線が決まっていた増毛駅にも足を運んでみた。廃線されると言う割には、立派な駅舎が印象的だった。

(Tarbertのカフェにあった、過去の漁の写真。漁業で賑わっていた頃の様子を垣間見ることができる。)

 

ビールを飲み終えた僕は、アランモルトを頼んでみた。大ぶりのウィスキーグラスに注がれたウィスキーを、まずは一口飲んでみる。ココナッツのような風味だ。少し甘さもあり、潮の影も覗く。気分が余計に、開放的な海辺へと移行していった。気づけば、パブは少しずつ賑わいだしていた。ビリヤード台では若者たちがゲームを楽しんでいた。

 

 

黒ヤギのいる城の跡

翌朝には、この村に残るもう少し古い時代の様子も覗いてみた。

漁業以外に目を向けると、この村には城がある。城と言っても、今は一部の壁が残るだけの廃墟となっている。

村の端っこまで歩くと、小さな看板と、その横に細い階段があるから、そこを登って行けばいい。城は最も見晴らしの良い場所に建っている。廃墟となった城の周りは、かなり凸凹としている。この凸凹もかつての城の一部だったようだ。地面は水気で湿っており、かなり伸びている芝生の上や時々あるむき出しになった泥が、歩くペースを鈍らせる。

 

城の周りには凸凹と同時に、なぜか黒ヤギもいた。ネコだと不吉呼ばわりされていてもおかしくないほどに黒だった。少し近づいてみると、黒ヤギ達は凸凹の斜面を軽快に走り逃げていった。僕は城跡と共に、Tarbertと海の景色をぼんやりと眺めていた。

 

 

第9回あとがき

町だと思っていたのは、Tarbertには一通りのものが揃っていたように思ったからです。アイラ島も含む近隣の島々へのフェリーの拠点としても、機能しています。漁業は衰退していると書いたものの、最近は5月のヨットレース、7月のシーフードフェスティバル等、新たな見どころも増えています。シーフードフェス、行ってみたい。

アイラ島から帰ってきた時、この村が気になってもう一度立ち寄ってみました。

日の暮れた村へ出ると、外はかなり涼しく、海風が心地良い。夜になりmidgeの出現率もグッと減って、少し海辺でたたずむこともできました。相変わらずどこか哀愁感が漂う…僕はこのTarbertのような雰囲気が大好きです。

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プロフィール

わたぽん(@wataponf1_uk)

高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の本場:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかり経験するも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。夢の力を証明したい。 詳しいプロフィールはこちら


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