【5】スコッチウィスキーのおいしい食べ方

スコットランド旅行を記したエッセイ。毎週木曜日、日本時間の午後9時くらいに更新。全10回ほどの予定。(はい、先週サボりました。)


どのような旅にも、多かれ少なかれ、それぞれの中心テーマのようなものがある。

村上春樹氏のエッセイ、「もしも僕らの言葉がウィスキーであったなら」の書き出しだ。僕はタイトルに興味を持ち、この書き出しを見て、この本に恋をした。以来、何度も読んでいる。

今回のスコットランド旅行では、ドライブとウィスキーがテーマだ。たいてい昼間はドライブをし、夜にウィスキーを飲んだ。

遅くても、だいたい18時までには宿を見つける。というか車を夜通し無料で駐車できる場所を見つける。車中泊だから、その辺は緩い。無事、町の近くで駐車できた日には、名も知らない町へと繰り出し、おいしそうな店や飲めそうな場所を物色しだす。

必死になる必要はない。

町には少なくとも一軒の店はある。幸運にも料理がマズいというレストランには、二週間を通して遭遇しなかった。むしろ、スコットランドの美しい田舎でこそ、よりおいしい物が食べれたとも言える。

お店に入れば、そこでお酒を出していない確率は、かなり低い。スコットランドなのだから、そのお酒のリストには、もちろんスコッチウィスキーも載っている。カウンターのボトルを見てみよう。シングルモルトウィスキーが豊富だ。もちろん、レストランで食べた後、パブやバーに行くってのもアリだ。何度かやった。

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計画都市での無計画なディナー

「さあて、今夜はどうしよう。」

その日も夕方になると、僕は運転しながら考え出した。

地図を見てみると、行きたい方向に町がちらほらとある。正直、名前も土地勘も一切ない。ただ、周りより少しだけ大きな文字で、地名が書かれている。

“Grantown-on-Spey”

この町には、中心部の教会横に、24時間まで無料で停めれる駐車スペースがあった。ラッキー。車中泊のセットアップを済ませ、足早に町を歩き出した。

 

Grantown-on-Speyは、スペイ川近くにある町である。

ウィスキーで有名なスペイサイドとは少し違う。もう少し上流、Cairngorms国立公園の中にある。町の両端は、川とハイランドの自然。アウトドアへの拠点としても、使えるそうだ。

 

この町は1765年にできた、計画的居住地。

町の道路は、何かの運命かのように真っすぐと伸びていて、その脇を個性的な店やホテル等が固めている。ホテルの様な大きい建物は、ジョージアン様式が多い。かつてイギリス国王がドイツ人だった1700年代に、人民の忠誠を促すためにイギリス独自の建築が模索され、生まれた建築様式だ。それまではフランス等の建築が主流だったそう。

そんな町の中では珍しい、緑色の壁をしたレストランがあった。

ここが、Wee Puffin。

“wee”とはスコットランドでは、”少しの”という意味になる。”puffin”は鳥の名前だ。カラスとか、鳩とか…いやもっとカササギやシラサギを例に挙げた方がいいのか。スコットランドの海岸沿いの他、アイスランドでもpuffinの名はよく聞いた。とてもかわいい。食用可。

ちなみにweeは、おしっこという意味にもなる。小便というより、おしっこだ。

しかしここはスコットランド。

“wee dram”という言葉がある。「少しのお酒(ウィスキー)」となる。蒸留所見学の最後の試飲に、よく使われる表現だ。

 

レストランの中に入ってみると、ガタイの良さに対して目がやたらと可愛い店主が迎えてくれた。

「あいにく店はいっぱいだ。が、30分から1時間待ったら開くかもしれない。」

店主は言った。目は涙を含んでいるかのようにキラキラしているのに、口元はギュッと結ばれている。

「じゃあ、このカウンターで少し飲んでてもいいですか?」
「もちろん、そのためにある。」

「ウィスキーはありますか?」

店主にやっと、微笑みが見え出した。僕は2席しかないバーカウンターに腰掛けた。

しかしまあ、大量にウィスキーがある。下手なワインバーにあるワインの数よりも、揃っているんじゃないか。しかも皆、スコッチウィスキー。どうやって選べばいいのだ。

そんな困った若造を見かねたのか、店主は自作のウィスキーメニューを出してくれた。丁寧に、味や香りの説明まで書いてある。悩んだ後、「地元の人はまずこれで始める」と言われたウィスキーを頼んだ。銘柄は、忘れた。味も印象がなく忘れた。

 

その内、席が空いた。

ウィスキーの選定に比べ、何を食べるかについては悩みはなかった。

ハギスだ。

羊の内臓を羊の胃袋の中で調理するという、羊な一皿だ。手前の黄味がかかった物は、”bashed neeps”。マッシュされたカブだ。奥にはマッシュポテトもついている。

ハギスについては事前に色々な噂を聞いた。

まずい、うまい、店による、ビールに合う、ウィスキーに合う……

キリがない。なら自分で食べてみるしかないと思った次第だ。

 

一口目。
ゴクリ。
かなり緊張しながら食べ始めた。しかしなんというか、意外にすんなりとなじんだ。

少し塩辛さがある。ハギスとはいわば、羊のソーセージのようなもの。形はソーセージとは遠く離れているものの、鶏そぼろのような食感は嫌いじゃない。案外うまいじゃないか。

 

ウィスキーを少し、かけてみた。

スコットランドの人は、ハギスにウィスキーをかけて食べると聞いた。この店には、Angel’s Nectorという、Grantown-on-Spey独自のブレンディッド・ウィスキーが置いてある。というか、この店独自だ。(他にも、ビールの樽に買ったウィスキーを詰めてみたりしていた。新しいウィスキーの味も模索しているレストランなのだ。)

いやはや、おいしい。
ハギスの塩辛さを筆頭とした濃い風味が、ウィスキーと良い塩梅に混じり合う。時より、口の中がその味の濃さでしんどくなる時もあるが、そんな時はbashed neepsがある。大根おろしのように、口の中を中和してくれる。食べた感じも、大根おろしに近い。

Wee Puffinのハギスはうまかったのだ。

僕はこれがハギスで、これがスコッチウィスキーの楽しみ方なのか…な?などと思いながら、混雑している店を出た。まだ外は明るい。夏のスコットランドだ。

 

 

ウィスキーの島の食事

ウィスキーをかけると言えば、もう一つ有名なものがある。牡蠣だ。

これを楽しむには、アイラ島へ行かなくてはならない。いや、もちろん魚民で牡蠣を注文し、そこにウィスキーをぶっかけてもいいのだが、とにかく本場はアイラ島なのだ。

アイラ島とは、スコットランド西海岸、アイルランドとの間にある、小さな島だ。ウィスキーで有名な島であり、この島には2017年時点で、8つのウィスキー蒸留所がある。異常事態、あるいは、ウィスキー天国。今回のスコットランド旅の、重要な目的地でもあった。

この”牡蠣のウィスキーがけ”も、村上春樹氏のエッセイで知った。
そして僕も、同じところで、同じように食べてみたいと思った。

場所はボウモア、島都と言えるだろう。あらゆる意味で、島の中心にある。

 

よく晴れた日だった。
スコットランドはいつ来るか予測不能な雨と、ゴウゴウと吹き荒れる風がアイコンマークである。アイラ島なんて、その代表例、地域の主砲である。

しかし風の穏やかなキリッとした晴れ空の下、アイラ島はまるで楽園だった。本当に。羊たちも元気だった。というかのん気。

They saw a car coming, and then started crossing the road… #nofilter #sheep #scotland #islay #自然 #羊 #のんき #ほのぼの #スコットランド

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店については、ボウモア蒸留所を見学した際に聞いてきた。

 

僕「この町でおすすめのレストランはどこですか?」
案内人「何が食べたいかによるね。シーフード?それとも…」
僕「牡蠣です!」
案内人「それならHarbour Inn一択ね!」

 

ボウモア蒸留所のテイスティングバーで、昼間っからボウモア12年を飲みながらの話だ。

ちなみにボウモア蒸留所の見学ツアーはおすすめだ。
6ポンドで、世界最高峰とも言えるボウモアの伝統的なウィスキー作りを見学できる上に、最後には2杯のウィスキー・テイスティングまでついてくる。それにこれは個人的感想なのだけれど、案内してくれた方の説明が、最も深く、分かりやすかった。

「写真は好きなだけ撮っていいよ。」

ボウモアはのウィスキーは、別名「アイラの女王」と呼ばれている。
撮影自由は、女王の余裕なのか。それとも、たとえ写真で撮ったとしても、この味や風味やストーリーは、他の誰にも作れないという自信なのか。

Harbour Innに入ったのは、その日の夕方だ。

ボウモア蒸留所の、すぐ目と鼻の先である。いわば、お膝元。席からは、小さな港が見える。夕焼けが綺麗だ。

頼むものは生牡蠣とウィスキーだと決めていたが、生牡蠣だけを食べてお腹いっぱいにするのは大変だ。メニューを受け取ると、必要な時間を取って、十分に考えた。しかし頼んだのはメニューに書いてないものだった。

店員「どちらにしますか?」
僕「うーん、まだ決めきれてないです…」
店員「本日の特別メニューもありますよ。」
僕「その中にシーフードはありますか?」
店員「ええ、ムール貝なんてどうでしょう?今日引き揚げられたものですよ。」
僕「Why not(それで)。」

 

ウィスキーについては、それほど悩まなかった。ボウモア蒸留所のお膝元で、ラフロイグを飲むわけにはいかない。しかしお金が有り余ってるわけでもない。ボウモアの銘柄の中で安い順に下から頼んでいたのだが、バレただろうか…。安いと言っても、ボウモア自体が十分な高級ウィスキーなのだ。エルメスに安物がないように。

 

生牡蠣は、個数で選べる。3個、6個、9個…。僕が頼んだのは6個。一人で堪能するには、ちょうどいい数だ。

親にこの写真を送ると、白ワインが合いそうやな、と返ってきた。

違う違う。ウィスキーやで。
この貝殻の中に、ウィスキーを”トクトク”と流すんやで!

まるで取扱い説明書に従うかのように、村上春樹氏のエッセイで紹介されてた通りに食べた。もちろんウィスキーに包まれた身を食べた後は、貝殻の中に残ったウィスキーを、貝汁と共にすすった。これがたまらなくうまい。身震いした。

ちなみに幾つかは、ウィスキーではなく、付き添いで出されたビネガーのようなものと一緒に食べた。ウィスキーと食べると濃厚に口全体に広がるのに対し、このビネガーで食べるとさっぱりとした、違う味が楽しめる。これはこれで、病みつきだ。

牡蠣が口の中でとろけていった。

 

メインでやってきたムール貝には、正直言ってウィスキーは合わなかった。なんというか、お互いが攻撃し合って、訳が分からなくなってしまう。代わりに食後には、ボウモアのウィスキーがしっくりと来た。ゴルフボールがホールに入るように、ストンと収まった。ムール貝の攻勢が和らぎ、そこを春先に流れる小さい山の雪解け水のように、静かにウィスキーが流れていった。

人生でこんなに貝を食べたのは初めてだった。ウィスキーも然り。幸せだ。

 

食後、僕は海沿いに出た。
外は太陽がほぼ沈み、薄暗い。町には店からの明かり、そして蒸留所からの明かりが、最低限灯っていた。白い建物には、BOWMOREの文字。昔、出荷用の船がやってくる時に、海から分かりやすいようにと、でかでかと書かれたものだ。

僕は確実に、ボウモアを好きになった。

 

第5″貝”あとがき

ウィスキーって、正直とっつきにくいところがありました。お酒の中では高い方だし、アルコールは強いし、なのにまるで専門家のように色々な人が語っていて…。

今回の旅では、そんな思いがなくなりました。
というか、ハギスや生牡蠣と一緒に食べてる内に、どうでもよくなりました。

 

一件目のWee Puffinに行った後、僕はパブに行きました。店主に何飲む?と聞かれた時、そこでもウィスキーをと、黒板に書かれたウィスキーのメニューを読み始めました。

“No no no no! What are you doing? Look here! What do you want??(違う違う、何やってんの?ここを見ろ。何が飲みたい??)”

バーに広がった数々のウィスキーボトル前に、店主は手を広げて言いました。

香り、味、飲後感…

ウィスキーの薀蓄は、ネットに腐るほど溢れています。バーテンダーは色々語ってくれます。
でも僕としては、なんとなく気になった銘柄を飲み、その中からいくつか好みのウィスキーを見つけられたら、それはとても幸せな事だなとだけ思っています。

以上、わたぽんでした。ほなね!

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わたぽんの簡単な自己紹介

小学生の頃のあだ名を再利用してます。イギリス、サウサンプトン大学で空気力学を専攻中。F1でレースカーをデザインする事を夢見ています。第一印象はイケイケの大学生と言われがち。現実はだいたい机の前。詳しい事は、→プロフィールでどうぞ
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僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。イギリスの大学より執筆中。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。かれこれ短くない期間書いています。
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プロフィール

わたぽん(@wataponf1_uk)

イギリス・サウサンプトン大学でF1マシンデザイナーになりたくて学んでいます。イギリスに来て2年目にして、やっとイギリスのことが好きになりだしました。ブログの主なテーマは「夢を追う僕の生き方」と「イギリス留学」です。完全なる趣味で運営してます。 詳しいプロフィールはこちら


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