イギリスの学生フォーミュラチームで、チーフ空力デザイナーになりました

こんにちは、イギリスで大学生してるわたぽんです。今日は近況報告。

イギリス・サウサンプトン大学の学生フォーミュラチームで、チーフ空力デザイナーになりました…!!

…と言っても、多くの人にはちょっと分からないですよね。でも、F1のエンジニアを目指してる僕にとって、とても重要な到達点なんです。というか、未だに信じられない、奇跡。

例えるなら、プロ野球を目指してる高校球児が、夏の甲子園に出場できる力を持った高校でレギュラーになれた…って感じでしょうか。

とりあえず、夢への過程を書くブログとして、何があったのか順を追って書いていこうと思います。(いくつかは別記事で、詳しく書きます。)

 

まず、学生フォーミュラとは?

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学生フォーミュラとは、各大学や専門学校の学生がレースチームを組み、学生だけでレースカーをデザインし、スポンサーを集め、自分たちでマシンを作り、実際に他チームと競い合う取り組みです。発祥地のアメリカではFormula SAE、ヨーロッパではFormula Studentsと呼ばれています。(ちなみにF1は、Formula Oneの略称)

大げさに言えば、学生版のF1

F1に限らず、将来レース業界で働きたい人にとって、いわば登竜門、あるいは適性検査場のようなもの。

日本で言うと一応サークルの部類に入るのですが、その本格さとシビアさから、サークルというより無給の仕事場。いかに速く、運転しやすいマシンを、予算内で作れるか。車が好きな人、レースが好きな人が集まり、趣味で本気で戦う、戦場。ほんまに、冗談抜きで。

 

チームはだいたい、いくつかの部門に分けられます。エンジン部門だったり、サスペンション部門だったり。

僕が所属しているサウサンプトン大学のチームでは、その中に「空力部門」があります。これは簡単に言えば、空気の力を利用して、車をより速く走られるように研究・開発・製造する部門です。

そして僕は今回、この空力デザインを統括する、チーフエアロデザイナーになったのです。

…だいたいイメージはつきましたでしょうか…?

 

なぜそれが夢を叶えるための重要なステップなのか?

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学生フォーミュラは登竜門と言いました。そこでエンジニアとして活躍したり、重要なポジションをこなすということは、モータースポーツ産業を目指すのにとても大切です。

冒頭の野球の例えで言えば、夏の甲子園でどれだけ活躍できるか、みたいなものです。
いくつホームランを打ったとか、エースとしてチームをベスト4に導いたとか、そういうものがドラフト会議で選ばれるには重要になってきますよね。似たようなもんです。

僕は今、甲子園出場候補校のレギュラーになれた。

ここから、どれだけ活躍できるか、スカウトの目にとまるような能力を発揮できるかが、プロへの鍵。

チーフデザイナーなので、マシンの全ての領域のデザインを統括することが役割。フロントウィング、リアウィング、サイドポッド、その他もろもろ…すべてのパーツ開発に関われます。責任も伴うけど、これほど楽しみなことはない。

 

しかしまあ、正直未だに信じられないです。
幸運だったし、周りに助けられたと思っています。50人以上が参加するチーム最大の部門、それもイギリスのチームで僕がチーフエアロデザイナーになれたのは、奇跡です。

だって、当初は「最も見込みのないメンバー」だったもんで…。

 

当初は見込みゼロだった僕

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秋に大学一年生としてチームに入った僕は、ハッキリ言ってボロクソでした。ファウンデーションコースにいた時に逃げだしたので、ゼロからのスタート。

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いやゼロならまだマシですね。

空力開発に必須のソフトウェアの知識は皆無。プログラミングも特にはできない。学術的な知識も、高校レベルに毛が生えた程度。それだけなら他の新入生とほぼ同じなのですが、さらに困ったことに、僕は英語がクソでした。

チームメンバーが話してることに、ちゃんとついていけてない。もう、マイナス。

その時はまじで笑っていられなかったです。チームでも一番パフォーマンスへの影響が少ないグループに入り、僕はそこで一年間、こっそりと学びながら、大人しく過ごすはずでした。

 

情熱と行動力と運とタイミング

しかし僕のとあるバカな行動により、”きっかけ”が生まれました。行動が呼び寄せた幸運とも言えます。僕は空力部門のリーダーに、面白い奴だと思われたようです。

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それから、毎週各部門リーダーによって行われるデザインミーティングに参加できるようになりました。これ自体が奇跡。参加できると言っても、空席があれば来てもいいよって感じで、行けないときもありました。

しかも参加しても特に何かをするでもなく、というかほぼ何もできないので、てかたまに何言ってるかさえ分かってない時あったので、見たり聞いたり、リーダー達の仕事を眺めていました。

 

しかし確実に、モチベーションに繋がりました。あと、リーダー達に「珍しい、アジア人が来てる」と顔を覚えてもらいはじめました。今年のリーダー達、ヨーロッパの人たちだったので。

同時に、当時の僕は狂ったように勉強とCAD(デザインソフトウェア)の練習をしてました。

そのおかげか、ちょっとずつ、CADを使ってレースカーのパーツを描けるようになっていきました。小さなデザインタスクを、部門リーダーに納めていく日々がしばらく続きます。

 

「Main Body、作ってくれる?」

とある日、突然リーダーから来たメッセージ。Main Bodyとは、簡単に言うと、チューブで組まれた車の骨格を、カバーするパーツです。車のボンネットみたいな。

 

僕「作れます!いつまでですか?
リーダー「3時間半後
僕「できます!

 

いや、無理やって、作れるわけないやん。今まで自分で2ヵ月かけて、一から最後まで作れなくて苦しんでたパーツを、3時間半で作れと言われた。普通に考えれば、できるはずがありません。

しかし「できます!」なんて言ってしまったので、講義後、僕は焦ってパソコンルームへ。

 

「できるわけないやん。でもやるしかないやん…!」

ワクワク感と焦りと心配と。

 

3時間後、常識的に考えて無理な難題を、僕は…できませんでした。笑
しかも追い打ちをかけるように、それまでに他の人と協力して出してたデザイン案も、却下されました。

 

リーダー「とりあえず今ミーティング中やし、ミーティング来て。

と言われ、のこのことデザインミーティングへ。どもども。なんて挨拶してる余裕もなかったけれど。

呆れられるかなーと思ってたけど、そこで願ってもないようなことが起こりました。

リーダー「大学院生の人が見本を見してくれるから、何か学べる…と思うよ?

…なーんて言われ、そこから3時間、僕は先輩がソフトウェアを使いこなしパーツを描いていく様子を、解説付きで見ることができました。そのおかげで、僕のソフトウェアスキルが一気に上がる。他の新入生よりも、一歩前に出ました。

 

先輩が初めて驚いたとき

その後、残りのパーツのデザインを任せられました。サブグループの中で、僕しか描ける人がいなかったので。ナンバーワンも良いけれど、オンリーワンは強いですよ。他の人にはできないんですから、需要独占。

2週間ほど難航を極めた後、腕を上げてきた他のメンバーとも協力し、なんとか提出できる形が出来上がります。

しかし、デザインとはそこからが勝負

「ここ20mm上げてみて」
「この形のサンプルも作ってみて」

チームのテクニカルディレクターから、細かい指示がどんどん飛んできます。空力部門のリーダーも、ちょくちょく修正を指示してきます。タイムリミットが近づいてくると、「俺がやる!」とも言わんばかりの勢いでマウスを取り、リーダーが直接修正を試みたりします。

 

でも、どうもうまくいきません。
彼らがいじると、ぐちゃぐちゃに荒らして、最後には「ごめん、元に戻して。」と僕は何度も言われました。ほんま、どこのブラック企業やねんと。

 

最終段階。

空力リーダーとテクニカルディレクターが、最後の修正に挑む。僕は隣で、僕のデザインがぐちゃぐちゃになっていくのを眺める。しかし何度トライしてもうまくいかないよう。

 

僕がやってもいいですか?多分、できます。

 

…生意気な僕が言いました。

お前にできるわけないやろ、とでも言わんばかりの顔をしながらマウスを渡され、僕が修正を始めます。

で、できちゃったんです。

どうやってやったん??

驚きの顔をしたリーダーが、思わず尋ねてきました。「やったぜ!!」って心の中で思いましたね。ちなみに彼は、一年休学してF1チームへインターンへ行くことが決まっている、かなり優秀な人です。なのでなおさら嬉しかった。

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(灰色の縞々模様の部分が、僕の言うMain Bodyです)

 

その後、イギリスの暗い冬の中で、一時期モヤモヤしてました。何も手につかない時期。この頃の状態は、別記事でも書きました。

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で、最終的にどうしたかと言うと、結局逃げ道を考えないようにしたんです。自分の弱さに立ち向かえ、と。

サマータイムが来るまでは足取りが重かったですが、毎日、自分のやるべきことをコンスタントに進めていくことだけを考え、実行しました。この頃に英語面での弱点の多くを、つぶせました。留学二年目だけど、英語クソだったので。後に、「最初お前の英語、マジで何言ってんのか分からんかったわw」とリーダーにいじられました。二年目やったのにな…汗

 

春、次のリーダーが選ばれる

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冬が過ぎ、イースター休暇も終わり、次のリーダーを選ぶ時期。

単純に言うと選挙があったわけですが、僕が目指していたHead of Aerodynamicsという役職には、2人なることができます。1人はチームリーダー、もう一人はチーフデザイナー。

僕はデザイン面ではかなり貢献したし、チームのことも他のメンバーに比べるとよく知っている立場でした。だから基本的には有利。けれど、英語がまだ完璧ではなく、チームをまとめる立場になるには、選挙前のプレゼンで、説得する必要がありました。

昨年度は2人のポジションに2人しか応募しなかったので、まあ行けるやろうと応募。

 

そして2週間後、7人も応募してることが発覚しました。汗

 

「上級生も数人応募してるし、これは無理やろ…」

諦めムード満載のところに、突然、現在のリーダーからメッセージが来ました。

 

お前にしてほしいことがある。プレゼンで英語に問題があることをあえて真正面から言ってほしい。でも、お前がやるのはデザイン、メンバーに指示を出してく役割じゃない。やから英語は大丈夫やと言ってほしい。言ってること分かる?

 

びっくりです。突然の現リーダーからの個別アドバイス。「プレゼンをちゃんと乗り切れば、これは希望はある…!」と、再びやる気が出ました。

 

当日、プレゼンの準備は何日もかけてしたし、自信がないわけではありませんでした。でも、やっぱり心配になるし、ミスったら終わりというのも明白。質疑応答でスラスラと答えられなければ、弱点の英語を指摘される。

てことで、僕は酔ってプレゼンすることにしました。酔うと英語をスラスラ喋りやすいんですよね。笑

2時間前から飲みはじめ、最後はウィスキーで完了。ほろよいプラスアルファぐらい。僕は酔っぱらっても顔に出ないので、この程度じゃ誰にもバレません。

プレゼンでは、4分間話した後、4つのテクニカルな質問。僕は全てに、しっかり答えられました。プレゼンでもほぼ詰まらず。いくつか笑いも誘えたし。雰囲気は悪くない。これぞ酔っ払いの力。「レクチャーみたいやぞ!」とcommittee達に笑われましたが。すいません、それしかできないんです。

 

こうして、僕は目標だった、Head of Aerodynamicsになることができました。

F1のエンジニアを目指し始めてから4年半の頃。

 

わたぽんのまとめ的なにか

軽い近況報告のつもりが、長くなっちゃいました。

この1年間、僕はFormula Studentsと勉強に多くの時間を割きました。同時に、多くのことを捨てました。
ブログの更新を減らし、途中から他のソサエティ(サークル)も行かなくなり、大学の日本人コミュニティともちょっと距離ができちゃいました。ツイッター等の利用率も減ったし、ブロガーさん達のブログも読まないようにしました。あと、ニュースを見るのもやめました。たまにBBCで見るぐらい(あまりよくないことですよ)。遠距離恋愛中の彼女との関係も、以前よりもろくなった気がします。他にも色々。

 

多くのことを捨て去り、失い、求めていたものを手に入れた。

 

これで悪くなかったと、少なくとも今は思っています。だって、それが日本から1万キロ近く離れたイギリスへやって来た理由なので。やっと本業で前に進めた、という感じ。(こんな書き方したら彼女に呆れられるな…)

運、タイミングに救われ、先輩達に助けられ、なんとか”まだ見たこともない場所”にたどり着けました。そこからはもう、英語がどーだなんて、言い訳ができない世界。責任の伴う、勝負の舞台。大変だけど、これを乗り越えなきゃ僕の夢へはたどり着けないと、僕は思ってます。

大変だけど、めちゃくちゃ楽しみ。

 

(後日談:
「お前アホやんww」
選挙の翌日、面倒をよく見てもらった今年のエアロチーフから突然来たメッセージ。どうも、Facebookにシェアしたためか、この記事が読まれたようです。Facebookへの投稿もタイトルも一切アルファベット使わなかったのに…。
そして、ウィスキーのくだりがバレたと。。(イギリス人はお酒の話題大好きな人多い)
こりゃ確実にイギリスでも変人になってしまったな。)

 

以上、わたぽんでした。ほなね!



わたぽんの簡単な自己紹介

わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら

ブログ「わたぽんWorld」について

僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!

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Comment

    • ybraiders
    • October 9th, 2018

    こんにちは。
    今年、アメリカの大学で運良く Formula SAE の Aero team に入ることが出来ました。
    わたぽんさんはFSAEで「こうすれば良かった」とか「絶対やるべき、勉強すべき」、「やっておいて良かった」と感じたことは何ですか? (SolidWorks は今勉強中です。CADクッソ難しいですね。空力は大体習いました。うちは新興チームらしいのでCFDはANSYS Fluentくらいしかありません。SIEMENSは申請中らしいです。SimScaleのCFDって信用できるんでしょうか?)
    是非本場の大先輩のアドバイスを頂きたいです。よろしくお願いします!

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プロフィール

わたぽん(@wataponf1_uk)

高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでの1年インターンも獲得。現在は卒業し、日本でF1から離れ生活中。 詳しいプロフィールはこちら


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