留学中にふと感じた、日本に帰るべきではないという感覚について

冬の一時帰国。

9月の終りから始まるイギリスの大学で、クリスマス休暇は初めてやっと、一息つけるとき。講義はない。課題もない。僕は前回の帰国から3ヵ月しかたってませんでしたが、無理はしないでおこうと帰ることにしました。

冬の日本。

それはもう、留学生にとっては素晴らしいものです。鍋がうまい。お風呂が気持ちいい。イギリスでピリピリと張り詰めて勉強した後。過去では何気ない日常の一部分だったものも、この上ない至福のように感じました。

イギリスへの帰り。

クリスマス休暇も終わりに近づいた1月1日、また勝負の場所へ戻るときです。バスの中、飛行機の中。イギリスに帰ってからのことを考えつつ、日本でのリラックスした日々を思いました。「良い日々やった。次帰るのも楽しみやなあ。」

その時に日本大好き度検定を受けたら、きっとかなりの高得点をマークしていたでしょう。日本はやっぱり良い。一時帰国してリラックスできたし、帰ってきて良かった。そんなことを思いながらトイレに行こうと席を立った時、それは”突然”やってきました。

 

「もしかしたら、日本にはもう帰るべきではないのかもしれん。」

 

なんなんだろう。
その時、つまり飛行機の中で突然感じた”この感覚”は、感覚なので、理由付けがうまくできませんでした。それでもかなりハッキリと、本能的な何かが警告を出していました。注意ではなく警告。このままではアカン、と。

1ヵ月以上が経った今、やっと”この感覚”について書けそうです。

 

日本に帰るべきではないという感覚が導く苦しみ

“この感覚”がやってきた時、僕は救われたと思いました。よし、これでまたイギリスで全速力で走りだせるぞ。冬の思い出とはもうバイバイや!と。飛行機の中では、まさか”この感覚”に1ヵ月近くも苦しめられるとは思っていませんでした。

 

来るはずのない苦しみ

最初の数日、僕は混乱していました。

そもそも、この混乱が来たのは、村上春樹氏の書いた「職業としての小説家」という本のせいだと思っていました。僕はこの本を読み、あまりにも僕と真逆のことを真剣に語られていて、僕の中での骨抜きセオリー(骨付きカルビみたいでおいしそう)が空中崩壊してしまっていたのです。

しかし(今となっては)明らかに、違うことが分かりました。

“日本に帰るべきではないという感覚”
こいつが原因です。

村上春樹氏の本は、”この感覚”の巻き添えを食らっていたようです。原因の根本ではありません。村上さん、ごめんなさい。とても良い本で、読み応えあります。読んだ後立ち上がって何か行動したくなるというより、ずっとぼーっと座っていたくなるような本でした。

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“この感覚”が生み出した混乱は、やがて苦しみへと変わっていきました。矛盾するようですが、僕は日本へ帰りたかったです。何もかもを捨て去り、帰りたかった。帰って彼女と一緒に行動し、のんびりとおいしい物食べたかった。

もしくは広大な自然の広がるところで、ぼーっとしていたかった。少しのお酒と一緒に。

大事なExamの直前。
僕はなんとも言えないモヤモヤに覆われていました。

「なんやろう、どしたらいいんやろ…」

こんな思いがずーっとまとわりつく感じ。かと言って、誰にも相談できない。だって自分でもなんでここまでモヤモヤしてたのか、この時はまだ分かってなかったんですから。言葉にできひん。

なんとか講義へ行って、なんとかスライドやホワイトボードに書かれていることを写すので精一杯。講義の内容も、教授の説明も、友達の声も、すべていつもより2秒遅れて入ってきて、音速で抜けていきました。

 

Exam当日に追い打ちがかかる

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一番キツかったのは、この時だったと思います。

最初のExamの日。昼から一つ、夜にもう一つの試験がありました。
ボーっとしている頭を叩き起こし復習をして、なんとか試験は乗り越えられそうでした。朝、ちょっとだけ気分が回復してるなと思いつつ、Facebookを覗く。なにやら友達の多くがいいね!やコメントをしている投稿がある。

 

コースメイトの離脱。

 

コースメイトが大学をやめた…。
彼女は留学生で、Foundation Courseから同じコースだった人。Course Rep(コース代表生徒みたいなもの)も務めていました。その人が突然の”mental illness”。しばらく休まないといけない、と。

 

「他人事ではない。」

僕はたしかに、この投稿を読んで思いました。

「俺も逃げればいいんじゃない?ちょっとキツいです。休みます。また回復したら戻ってきます。」

簡単です。今すぐ試験会場へ行かず、大学の事務所へ行って伝えればいいんです。やめますって。親にもゴメンって言って。彼女には帰ることにしたと伝えて、僕は日本に帰れる。少し休もう。

周りの誰かもいいます。

「休んだっていいんだよ。君はまだ若い。苦しみ、前に進めないことなんて20代では普通だ。」

ちょっとぐらい休んだっていい。親は悲しみ友達は笑うかもしれないけど、僕の人生です。

こんなことばかり、思いめぐらせていました。

 

苦しみは僕の無意識の中から生まれていた

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休みたけりゃ、休めばいい。

僕の細胞のほとんどは賛成していました。うえーい、休みだあーって。でも、体のどこかで、拒否反応が出ていたんです。違う…。今は違う…。休みたくない…。

 

そういや、なんでやろ?

最も苦しいときは、同時に解決策が見えてくる時でもあります。なぜ拒否反応が出るのか?僕は正面向いて、正座して、自分とお話しするようになりました。

色々な話を聞きました。
保育園で電車オタクになって、小学校で他の人と何かが違うことに気づいて。中学の終わりには何もかもが真っ暗になって、そして高校でF1に出会って。そこから自分の信じる道を進みイギリスへ来て、でもイギリスでは思い通りにいかないことばかりで。そんな中でもやっと、壁にハシゴをかけることができて、あとは登るだけってとこまでできた。

耳を澄ませて聞くと、様々なことがフラッシュバックしてきました。そしてWordにフラッシュバックしてきたことをなるべく書き留めていく内に、だんだんと分かってきました。

 

なぜ苦しんだのか?

僕はきっと逃げ道を捨てるのが怖かった。

“日本に帰るべきではないという感覚”を、嘘だと思いたかった。帰るべきではないという感覚が、怖かった。
これがすべて。

なんで?

だって、帰りたいもん。
あんなにおいしいトンカツがあって、醤油や出汁ベースの味は優しくて、お風呂は気持ちよくて、街は居心地よくて。彼女にも簡単に会えるし、親にイギリスの高い学費を払ってもらう必要もなくなるし。そうそう、ブログをもう少し本格的に取り組めば、きっとそれなりに儲けることは難しくはないし。プログラミング少しやって、どこかのベンチャーでも入ればなんとかやっていけるやろう。

「うん、その方が楽やもん…」

これが本音。

そう、ただの現実逃避。
逃げた後のなんとかするアイデアは簡単に思い浮かぶけど、すべて現実から逃げるための策。

自分の子供の頃を振り返って気づいたことの一つ、それは、僕が現実逃避ばかりしていたということ。高校のときまで、逃げてばかり。F1と知り合うまでの僕は、逃げることに全力を注いでいました。

F1を見て、後にF1のエンジニアを目指すと決めた時、僕は嬉しかったことを覚えています。やっと逃げることをやめられたって。それなのに、また逃げようとしてる。イギリスにまで来て。

「逃げんな!」

僕の体のどこかが、確かにそう言ってました。それが、逃げようとしていた僕への、僕からの拒否反応だったのです。逃げることがすべて悪だとは思いませんが、僕の場合、それはするべきではないこと。我ながら、頼もしい僕の一部です。

覚悟を決めたはずだったけど、きっとどこかで逃げ道ばかり模索していた。特にイギリスに来て、うまくいかない事が増えてから。無意識の中で、僕は片足を日本に置いていた。いざという時に、なんとか逃げられるから。

ただ逃げ道を断つのが怖かった…これに気づいてから、楽になりました。なーんや、そういうことかって。

 

日本に帰るべきではないということ

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これは一般論ではありません。

日本に帰るべきではないというのは、あくまで僕の中での話です。もしかしたら留学生の中には、帰るべき人もいるのだと思います。めちゃくちゃ意識高い系に聞こえますが、どちらかと言うと無意識から来た感覚なので、”無意識高い系“です。僕の無意識は凄いんですよ。

ただ、僕は日本にいるべきじゃないって思ったんです。

日本にいると、快適なぬるま湯に体を沈め、安らぐことができます。実家が京都なので、京都の街を歩いていると、ホッとします。お店に入れば、口に合うものが簡単に手に入ります。スーパーのお惣菜コーナーなんて、天国ですよ。ほんまに。できることなら、快適空間でのんびりと暮らしたい。

そして実際、冬休みはのんびりと快適ほくほく生活を送っていました。

快適な空間でのんびりしているとどうなるか?

僕の場合、答えはダメになってしまいます。本当に、どうしようもない使えない奴になります。

「日本に帰るべきではない」という感覚は、体から送られてきた警告。「この空間はアカン、お前のいるべき場所ちゃう。人生しょーもないもんになってまうぞ。それに今は目指してるもんがあるやろアホが。

そう。僕には夢があります。目標があります。少しぐらい険しい道であっても、達成したいものがあります。僕の体の一部が叫ぶ通り、日本でぬるま湯生活は、僕にとってはただの逃げ。

俺の勝負の場所は日本やないで。

 

わたぽんのまとめ的なにか ー ただ逃げてるだけじゃありませんか?

僕は自分の感覚に、なぜか確証があります。

でも、日本に帰るべきではないと言っても、留学中も数回帰ることになるとは思います。スポンサーである親もうるさいし、今は彼女も待ってるし。それでも、夏休み入ってもちょっとだけ長くヨーロッパにいて、日本に帰国しても、日本だからとネジをあまり緩めないようにします。(緩めすぎると、またどっぷりぬるま湯に浸かってしまうので。)

あなたにも似たような感覚があれば、もしかしたら現実から逃げたいだけかもしれません。逃げること自体は悪くありませんが、自分としっかり話し合ってみてください。足を崩して、少し照明を暗くして。

まあ、僕としては当たり前であるべき状態に戻ってきただけ。今はイギリスで切磋琢磨する時。マイナスがゼロになったまでです。

せっかく増えてきた貯金が減ってしまったので、また地道に一歩づつ進まないと、ですね。

道は長いです。

以上、わたぽんでした。ほなね!



わたぽんの簡単な自己紹介

わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら

ブログ「わたぽんWorld」について

僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!

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Comment

    • Mi-Mama
    • March 15th, 2016

    たまたま見つけて時々拝見してます。
    9月から息子がExeterのFoundationに進みます。というわけで、私はその母。ごめんね、オバハンで。
    読んでいると色々参考になります。
    体に気をつけて頑張ってください。
    大変だってわかっていても夢のために飛び込む、あなたやうちの息子のような子供たちを何もできなけど
    応援してます。

      • watapon
      • March 19th, 2016

      ブログを読んでいただき、ありがとうございます。参考になっていると聞くと、とても嬉しいです。
      応援してくれてる人がいるってだけでも、大きな励みになりますよ!息子さんの夢も、叶うことを願っています。

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プロフィール

わたぽん(@wataponf1_uk)

高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでの1年インターンも獲得。現在は卒業し、日本でF1から離れ生活中。 詳しいプロフィールはこちら


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