【1】スコットランドに何があるというのか?-ローモンド湖の駐車場
スコットランド旅行を記したエッセイ。毎週木曜日、日本時間の午後9時くらいに更新。全10回ほどの予定。
夏の休暇の直前、休暇中の予定を聞かれ、僕は仕方なく答えた。
「北に行く、多分、スコットランド。」
するとこう返ってきた。
「北?なにがあんの?笑」
日本ではイギリス旅行と言うと、その行き先の代表例はロンドンやオックスフォードである。いきなりスコットランドを目指して行く人は、そうはいない。
別に不思議なことではない。
フランス旅行でまずパリに行かない人は少ないし、イタリアへ行けばローマのコロッセオには訪れてみたいものだ。ハンバーグの有名な店へわざわざ行列を作ってまで入り、そこで食べる初めてのランチに、クリームコロッケのセットを選ぶ人は少ない。たとえそれがおいしくても。そういうものだ。
イングランドに住むイギリス人の間でも、その北にあるスコットランドへ率先して行こうとする人は、意外と多くない。(これは正直、意外だった。いや、ロンドンから二時間半も電車に乗れば、食の都・パリに行けるのだから当然のことなのか。)
とは言え、最近は特にアメリカやフランス、ドイツなんかからの観光客が、増えてきているという。
「なにがあんの?笑」
この言葉が引っかかった。
スコットランドには何があるというのだろうか?
最初に迎えた朝は、牧場の裏手の路地だった。
もしそこがB&B(Bed & Breakfastの略、朝食と寝室を提供している、イギリスでよく見る宿のスタイル)で、牧草をゆっくりと食べる牛の姿を眺めつつ、テーブルの前にはイギリスの誇るブレックファストと淹れたての紅茶…なんかだと、とても絵になる。イギリスにいるんだなと思える。
しかし現実は、道路沿いに少し膨らんだ空き地のようなところ。
きっとすれ違う車のために、適当に木を引っこ抜いて作ったんだろう。突然の見知らぬ車と僕に、牧場にいた牛達は不思議に思ったようだ。揃って僕を見つめつつ、隙さえあれば「モー」と鳴いている。そこが最初の宿であった。
(今回のスコットランド旅行は、車中泊で巡った。節約のため。)
Google Mapで見てみると、Dunblaneという町のはずれ。昨夜、とりあえず高速道路の最北端まで走らせ、そこで一晩駐車しておいても大丈夫そうなところを探した結果だった。
最北端と言っても、スコットランドの北半分には、高速道路が一切ない。(ちなみに、実際の最北端は別の街:Perthだったと、書いてる今発見した…。このように、今回の旅では旅程というものがほとんどない。道中、観光ブックで得た情報や気分を頼りに、車を走らせた。)
いずれにせよ、スコットランドを巡りだす必要がある。
スコットランドと言っても、エディンバラのような街もあれば、本当に何もないような所まである。車で来ていたので、街は避けよう
「ウィスキーが飲みたい。ドライブしたい。」
というわけで、最初の照準は”ハイランド”に定められた。
ハイランドとはその名の通り、標高の高い地域である。スコットランド北部のほとんどを占めており、そこで作られるウィスキーによって、広く周知されている。そしてあくまで引き立て役として、豊かな自然が覚えられている。
ガイドブックを読みだすと、最初の方にローモンド湖が紹介されていた。
ローモンド湖は南北に細長い湖で、その最大距離は39km。琵琶湖の最大の長さが63.49kmなので、めちゃくちゃ大きいというわけではない。そしてハイランドには、ナメクジのように細長い湖が無数にある。地図で見てみると、あくまでその中の一つということが分かる。
ガイドブックで必ず紹介される理由は大きく二つ。
一つは、国立公園に指定されているということだ。湖とその周辺地域は、様々な地形が折り重なるように共存している。湖、丘、山、谷。風光明媚なところである。
そして同じくらい重要な理由として、その立地が挙げられるだろう。
スコットランド第二の都市、グラスゴーのすぐ北。ハイランドの南の玄関口に位置している。おかげで、観光客は意外と多い。道は綺麗に整備され、日帰りバスも、嬉々としてやってくる。夏になると、Lussと呼ばれる湖沿いの村は、観光客でいっぱいになる。
驚いた。駐車場までもが有料なのだ。
15分単位で決められた駐車料金を前に、僕はあきれてLussを去った。まるで市街地じゃないか。1000km近くドライブしてスコットランドまで来たというのに、そこで駐車料金を止めたくない。貧乏性。僕の記憶上、1分でも止めたら駐車料金を取ってくるのは、ハイランドでこのLussだけだった。
しょうがなくもう少し北へ走らせてみると、ほんの5分ほどのところに、公衆トイレと駐車スペースがあった。無料だ。ここはスコットランドなのだ。
湖のほとりには散策路もあり、人はまばら。多分、ガイドブックには載ってないのだろう。
ローモンド湖の面白いところは、場所によって雰囲気がガラッと変わるところだろう。
南西側は綺麗でスムーズな道が伸び、Lussのようなかわいい村や、ギャラリー、ホテルなんかが建っている。観光客が目指すのも、主にこの地域。
一方、北に行くと、道は一気に様相を変える。
湖と森の間に無理矢理作ったような細い道は、かなり荒れている。いたるところに落とし穴のような窪みがあり、そこに水がたまる。雨がよく降るのだ。そこを一般車だけならいいのだが、トラックやバスまでもが走っていたりするから、正直怖い。
その分、運転は楽しくなる。
普通に走らせていても、まるでラリーカーを走らせているような運転ができる。スピードを出す必要はない。かなりクネクネとしている。湖に沿って道が続いているのだ。
そして何より、自然がより豊かになる。より”生き生き”としてくる。
左手には生い茂った緑があり、反対側には綺麗な湖。ここは両側を、山や丘に囲まれている。標高が上がるにしたがって、木が低くなっていく。てっぺんのあたりは、岩山だったりも。
そこでやっと実感しだす。ああ、ハイランドに来たんだなと。
湖の西側に比べると、東側はかなり静かだ。Lussの喧騒が恋しくなるほどに、車の数が少なくなる。
そもそも、道が途中で途切れている。ローモンド湖は、車で一周できないのだ。行き止まりの先には、山と、その隣に広がる湖。そこはヒルウォーキングか、ボートでないと超えられない。同じ湖のほとりなのに、こうも違うものなのか。
サンドイッチを食べながら、ハイランドをグルっと反時計回りで周ることに決めた。そこで改めて地図を見て、Loch Tayに向かうことにした。
ロック・テイ。かっこいい名称だ。
このLochは、湖を意味する。つまりテイ湖。うん、一気にださくなった。
スコットランドでは、他にも聞きなれない地名がよく見つかる。
Benもその一つ。これらはスコットランドで今も使われている、スコットランド・ゲール語から由来し、Benの場合は山の頂上を意味する。だから、Ben Lomondなら、ローモンド山となる。やはり、ベン・ローモンドの方が響きがかっこいいと思う。響きだけで、頭に浮かぶのは禿げたイギリス中年男性(ビール好き)なのだが。なぜだ。
しかし、どうもかっこいいのがゲール語の特徴というわけではないらしい。
Munroとつく地名がある。ムンロ、叫ぶのが難しそうな単語だ。標高3000フィート越えの山を指している。他にも、地名にMÓRとついていたら、それは「大きい、広い」という意味を持っている。モー。
いやはや、同じグレート・ブリテン島でも、こんなに大きな違いがあったとは。西側のアイルランドに近い島なんかに行けば、スコットランドの英語は分からんなと思っていると、実はゲール語で話していた、なんてこともあった。
英語のガイドブックにはこう書いてある。
「ゲール語の発音は難しい。スコットランドでの山登り初心者は、Ben VaneやBen Moreから始めた方が良い。Beinn FhionnlaidhやBeinn an Dothaidhなんかに登ったら、夜にパブでどこの山に登ったか、誰にも伝えられなくなるからね。」
LochやBenに囲まれた道は、走っていてとても気持ち良い。
ローモンド湖からハイランド内部に入りこんでいくにつれ、車の数が目に見るように減っていく。羊の数が増えていく。
途中、Killinという村に立ち寄った。
一眼レフの電池を切らしてしまったことを悔やんだ。(イングランドからの行きの車の中で、誤って電源がずっとオンになっていたんです…泣)
第一回あとがき
ここで第一回は終わりです。
Killin、とても落ち着く村でした。夕方にここの川沿いにあるパブの屋外テーブルでビールを飲みながら、ただただ川の流れる音を聴いていたかったです。今回の道のりはこんな感じ。
次回は少し飛ばし、スコットランドで最高のドライビング経験について書こうかなと思っています。なるべく多くの記事を一話完結型にして、適当にピックアップして楽しんでもらえたらなと。
感想もぜひ!
以上、わたぽんでした。ほなね!
わたぽんの簡単な自己紹介
わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら
ブログ「わたぽんWorld」について
僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!
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