【6】スコットランドで楽しむ車中泊の旅

スコットランド旅行を記したエッセイ。毎週木曜日、日本時間の午後9時くらいに更新。全10回ほどの予定。


もしかしたら君も、憧れたことがあるかもしれない。。

宿泊先の窓からは、ビーチ、そして海。もちろん、プライベートビーチ。一般客は、進入禁止。夕暮れには浜辺を散歩。そして、波の音を聞きながら、ウィスキーを一杯。

普通なら万単位でお金が飛んでいくが、ひょんなことから、無料で楽しめた。

車中泊だ。

車で一晩超すと言うと、キツい、辛い、寝れない、寒い等と、ネガティブコメントをたくさん聞く。まるでヤフコメじゃないか。

違う。いや、完全否定はできないけど、良いことだってたくさんある。

車中泊は、場所にとらわれず、安く、準備や季節の見定めさえしっかりすれば、それなりに快適に過ごせる。

そして、偶然性が喜びを高めてくれるのだ。

 

初めから車中泊に手慣れていたわけではない。むしろスコットランドに来て最初の3日ほどは、全くもって落ち着かなかった。

どこに車を停めればいいのかも分からないし、車内で寝るためのセットアップも、中々うまくいかない。最初の夜は、牧場の裏手に牛に睨まれながらやっとの思いで停め、用意した段ボール箱が壊滅したため、枕の部分がひどくへこんだ状態で寝た。もちろん、起きると首が痛かった。

 

次の日だって、良い感じの町を見つけたから停まろうとしたら、駐車できるようなところが全くなかった。たった一晩安らかに(無料で)停めるだけでも、場所の見極めが悪いと、難しいものになる。

しょうがないから町を移動し、街はずれの川沿いのわき道に停めていると、早朝に超巨大トラクターがやってきたこともあった。どうも、地元の農家が、そこをトラクターの仮駐車場として利用していたようだ。僕の小さい車から、僕の背丈を超えるタイヤを見えると、少々怯えた。

 

正直、萎えていた。
しょぼしょぼ。

 

パブに入り、作戦会議に移る。
このまま車中泊を続けることができるのか?

まだ2日目だったのに、疲れがたまり始めていた。予定では2週間近くかかる、スコットランド一周。僕はため息をつきながらAirBnBを眺めていた。

知っている。数日前に見た時、そこには安い宿は一つもなかった。みんな100ポンドだとか、あるいは安くても、いささか都合の悪い場所にあったりした。

それがどうした、スコットランド、グレートブリテン島最北端のすぐ近くに、30ポンドで泊まれるB&Bがあった。もちろん、朝食付きだ。すがる思いで予約をした。

 

結果的に、この4日目にしたB&Bでの宿泊が、良い効果をもたらした。

慣れない車中泊に、落ち着けていなかったようだ。小さな個室のシングルベッドでゆっくりするのが、こんなにもリフレッシュ心静まることだとは。

 

 

「新しいことを始める時、始めてしばらくしたら、一度しっかりとした休憩をとるべきだ。」

これは僕がいつも気にかけている、一つのセオリーのようなものだ。

新しいことを始めてしばらくすると、当初のワクワク感も薄れてきて、少し疲れが見えてくる。色々と分かりだして、壁にも当たる頃だろう。そこで一度、休憩をとるのだ。しっかりと、集中して。

僕の場合、だいたい2ヵ月が目安になる。2ヵ月すると、新しく始めた勉強やプロジェクト等から、少し離れる。休息する。そうすると、また歩きだした時に、見違えるほどにリフレッシュした自分に気づく。仕事が手に着き、新たなワクワク感に身が躍る。それは当初の興奮とは、違った種類のものだ。

今回の場合、ちゃんとした建築物の元、ベッドの上でしっかりと寝たのが、大切だったようだ。Wi-Fiもあり、ノープランで来たスコットランドでの旅程も、少しずつ形が見え出してきた。

 

 

車中泊の魅力

宿を出るとき、B&Bの宿主が教えてくれた。

「北海岸を進むなら、Smoo Caveには足を運んだ方が良い。あと、その近くに良い駐車場があるから、そこで一泊すると良いよ。」

かなり曖昧な説明だったのだが、とりあえず北海岸を進んだ。

その内、Smoo Caveにも着く。
その近くにはDurnessという町があるのだが、そこには良さそうな駐車場所はなかった。「どこにあんねーん」と独り言を言ってる内に、町を過ぎ去ってしまった。(ちなみに、この先1時間ぐらい町がないことを、後で知った。)

果たして、駐車場とはどこなのか?

 

途方に暮れているところに、一つ、思い当たる場所があった。

Smoo Caveに着く前、その少し東側に、ちょっとしたパーキングエリアがあった。といっても、本当に数台の車を停めれる”場所”以外には、何もない。文字通りの駐車場だ。

「あ、もしかしてあそこなんかな?」

そもそも、あんな大自然の中のパーキングエリアで、一晩超して良いのか、よく分からない。しかし他にも行くところがないし、とりあえずそこに戻ることにした。どうも、そこが正解のようだった。

駐車場の周りに施設はないが、ビーチはある。ガイドブックには載っていない。もちろん、人も少ない。

砂浜までは岩場と芝生の折り重なった坂道が少しある。傍の小川からは、海に水が流れ出している。ポツポツと、テントも張られている。ここは自然のキャンプ場だ。

晴れてきたようだ。

海の水は冷たいが、砂浜は控えめに言って、美しい。風は人がいないのを良いことに、思う存分砂浜に模様を描いている。

ビーチと言えば南の国を想像するが、北の冷たい風がゴウゴウと吹き荒れる中のビーチも、悪くない。

その日は少し暖かさもあったので、車の中で晩御飯を食べた後、ちょっとカメラで遊んだりもした。

Juraは、ジュラ島からやってきたシングルモルト・ウィスキーだ。僕のお気に入りでもある。

このビーチは、あの駐車場に停めないと来ることができない。キャンプとなると色々と道具が必要になるが、車中泊なら、いつもの暮らしの用具を、車に持ち込んだらなんとかなる。僕は枕も掛布団も持っていった。それでこのプライベートビーチのような感覚を楽しめるのなら、おすすめしないわけにもいかないだろう。

 

国立公園での教訓と最高の朝食

僕はスコットランド北海岸のビーチ沿いで気付いた。結構、そこらへんの道端にあるパーキングスペースで、夜を超す人がいるみたいだ。

ハイランドや海岸沿いのたいていは田舎だから、夜になると、車の過ぎ去る音もほとんどない。もちろん、無料。そしてパーキングスペースは、道端にたくさんある。スコットランドで車中泊の場所を見つけるのは、そう難しいものではないのだ。

 

時には国立公園内で、一晩を超した事もあった。

一本道が続いているのだが、時より、辺りの景色を眺めるための空き地があるのだ。地面がフラットなら、絶好の車中泊スポットだ。

寝る前と朝の絶景は、まず保証されている。
シャワーはないが(これが割と問題なのだが…)、食料さえ持ってきておけば、あとはどうにでもなる。

立て看板には、この辺りでは角の立派な鹿が見えると書いてあった。

まじでいた。
看板から出てきたのかと思った。

 

しかし、一つだけ大きな大きな問題があった。Midgeだ。

Midgeとは、ようは蚊のような羽虫である。スコットランド、特に西海岸に多く、夏に頻出する。こいつらが、すさまじく鬱陶しいのだ。

たいてい、大群で襲ってくる。あるいは少ししかいなくても、その内すぐ、数が何十倍にも増える。美しい女性がそうして寄ってくるのには問題ないのだが、midgeとなれば話は別だ。

こいつらは、噛む。噛んでくる。噛まれると、後々めんどくさいようだ。蚊のようだが、蚊は数匹だけでやってくる。midgeは一気に大量に来るから、目を開けるのもはばかられるほどになる。小さいけどね。

 

ガイドブックで「へー、こんなんがいるんや」と読んでいた頃は良かったのだが、ある日、国立公園内の大自然の中で、襲われた。目が覚めた時だ。

僕は寝る時はいつも、車の窓を少しだけ開けていた。そうしないと、温度差と湿度で朝に窓が曇って、中々走り出せなくなる。あるいは、midgeの絶好の入口となる。いやはや、midgeをなめていた。

ちなみにmidgeは、雨や強い日光に弱い。早朝や夕方の、まだ明るすぎない、温度の低い時間を好む。まるで、僕のような奴らだ。その中でも、とても有効な彼らの弱点がある。風だ。

 

midgeが風に弱いことに薄々気づきだしていたから、スカイ島では狙って、海岸沿いのそれも風の通り道になっていそうなところを狙った。思えば国立公園で襲われた時は、山の狭間だった。

結局、スカイ島のウィスキー、タリスカーを堪能したかったため、夜を超した場所はUigという町の駐車スペース…の様なとこにしたが、”朝食会場”はそこから山に登った。

周りは大した木はない。

元々、この辺りは氷河でおおわれていた場所だ。特にスカイ島は、イギリスでも氷河が溶けきるのが遅かった地域で、その名残がそこかしこに見られる。

普段は風がわんさか吹きそうな場所だが、その日は気が変わったかのように、晴天だった。

ここで持ってきたチーズとハムを、パンでサンドイッチにして食べた。付け合わせにミニトマトと、りんご。周りには羊。多分、放牧されてるものだろう。遠巻きに、草を食べている。青空。遠くから川の音。僕はサンドイッチを頬張る。幸せだ。

 

車中泊もこの頃にあると手慣れたもので、何もかもがうまくいった。僕の小さなスズキ・スイフトで、なんとか足を伸ばせる体制を確保し、寝るには十分なほどフラットな寝床も、用意することができた。

そしてなにより、駐車場所を見つけだすのがうまくなった。どうも、海岸沿いの方が、見つけやすいようだ。運が良ければ、綺麗な朝焼けか夕焼けも付いてくる。

結局B&Bにお世話になることも、4日目以来なかった。

 

第6回あとがき

慣れてしまうと、車中泊ってこんなに簡単にできてしまうんだ!と思います。季節さえ許せば、本当にまたやってしまいそうなほど。

  • 足を伸ばせる
  • フラット
  • 寝袋(寒さ対策)
  • できれば柔らかい地面
  • ある程度の暗さ(今回はタオルとアルミの保冷バッグを切り貼りして対応)

これらの点にさえしっかり従えば、十分快適に眠れました。どこにだって行けるから、世界が少し、広がったような気もしないことはありません。

それに…若者らしい旅ができて、ちょっと満足気でした^^

以上、わたぽんでした。ほなね!



わたぽんの簡単な自己紹介

わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら

ブログ「わたぽんWorld」について

僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!

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プロフィール

わたぽん(@wataponf1_uk)

高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでの1年インターンも獲得。現在は卒業し、日本でF1から離れ生活中。 詳しいプロフィールはこちら


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