F1を初めて見た時、全てはここから始まった。
2011年5月8日
なんでもない日曜日。いつもと変わらない日曜日。ゴールデンウィーク明けのダルさがまだ体に残っている。
その日もなんとなく過ぎた一日。朝何時に起きて、昼何を食べて、夕方何をしていたのかは、全く覚えていません。家を出たかどうかなんて、今となっては闇の中。
午後11時頃。
残りあと1時間で、月曜日が来る。ああ、また明日から学校かあ。小学生の妹はもう寝ている。平和で退屈な休日の終り。
歯磨きは寝る前の儀式です。夜眠る前、必ずしっかりと歯を磨く。僕は虫歯ができやすく、乳歯も永久歯も虫歯がすぐに繁殖してしまうんです。だから、中学の終り頃から歯磨きに本格的に取り組み始めていました。毎日30分ほど。口の隅から隅まで。
手を単純に動かしているのをただ30分続けるのは中々大変なことなので、よく”なにか他のこと”をしていました。
その日曜日、歯磨きのお共に選ばれたのはテレビ。
テレビは歯磨きのお供として、最も適したものです。テレビから数m離れたところへ座り、リモコンを軽快に操作する。
何見んの?
そんなの考えていません。ただ、30分間目に何か入ってくれば、その時の僕にはよかったのです。1チャンネルから、順番に変えていく。2、4、5、6、8、10…
8チャンネル。
僕は一通り何がやってるかチェックした後、一番”マシ”な番組を選びました。それが、何やらもうすぐスタートしそうなレース。Formula One、一般的にはF1と呼ばれているそう。
僕は車が好きでした。でも、いわゆるスポーツカーが専門で、F1マシンの形はちょっと違った。なんというか、タイヤがむき出しで、一般道ではまず見かけないタイプ。
しかしなんなんでしょう、僕はレーススタート前の様子を、ただひたすらに見ていました。中々かっこいいF1の事前解説もありました。ほうほう、日本人のドライバーがかなり良い線いってるらしい。
その内、車がゆっくりと走っている映像になる。テレビ画面にはチームやドライバー紹介なんかが出てる。
一周して、マシンがスタート位置についていく。全マシンがグリッドについたとき、スタートランプが光りだす。うなるような音が車から鳴りだす。
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ…。
すべてのライトが消えた。
一気に甲高いエンジン音が鳴り響く。
24台のF1マシンが、一斉に最初のコーナーへ向かって加速。
ぐちゃぐちゃ。
コーナーではカラフルな車達が、入り乱れていた。そこから抜け出し、一気に駆け抜けていくマシン。不思議にも、ほとんどのマシンは誰にも当たらずに抜けていく。
シャッシャッシャッ
歯磨きの音に邪魔されながらも、僕はエンジン音の重奏に耳を澄ませていました。やっぱ車っていいよなあ。
僕はテレビを消しました。
F1って見だすと長いんです。一回のレースで1周約5kmのコースを50周ほど。長い。さすがに2時間近くも見てられない。明日学校やし寝ないと。あっさりと洗面所へ行き、歯磨きを終える。トイレに行き、二階の自分の部屋に寝に行く。まだエンジン音が少し、頭に残っていました。
2週間後
日常。
その日曜日も寝る前の儀式の時がやってきました。洗面所で歯ブラシに歯磨き粉をつけたあとは、ガシャガシャいわせながらリビングへ。その日もテレビと共に。
しかしその日の僕は、何を見るか既に決めていました。
8チャンネル。
新聞のテレビ欄でたまたま見つけたF1第5戦スペインGPの文字。また11時から。この前結構面白かったし、今日も見てみるか。
午後11時。
CMが終わった後、少し間を置いて、放送が始まった。なかなかかっこいいオープニング。
興奮する。なぜか、興奮する。
しっくりくる。
未だにチームとドライバーはほとんど知らない。だから今回は誰かに注目して見ることに。日本人ドライバーとして唯一参戦していた小林可夢偉は、自然と気になる。もう一人、過去に7度のワールドチャンピオンに輝いたミハエル・シューマッハでも良かったけど、なんとなく、違うドライバーが気になりました。
フェルナンド・アロンソ。
地元、スペイン出身のドライバー。アナウンサーによる事前情報によると、彼はスペインの英雄。精鋭ぞろいのF1ドライバーの中でも、特に強いドライバーの一人だそう。
「彼はここ一番での集中力が凄いですからねー。地元スペインでのレースということで期待入っているでしょう。2列目からどうやって前に抜け出すか、アロンソのスタートには注目ですね。」
解説者も揃ってこのアロンソというドライバーに注目って言ってました。だから僕も注目。
今回はスタートで、どこを見ればいいか明け暮れる必要がありません。赤いフェラーリのマシンに乗った、フェルナンド・アロンソに要注目ですから。
赤い5つのライトが一斉に消える。
スタート。
アロンソに注目。
実況の人が騒ぐ。「アロンソが良いスタートだ!!」
短いストレートの後、クネクネと2、3個のコーナーがある。
24台のマシンがコーナーにつっこんでいく。
赤いマシンと青いマシン。
入り乱れるカラー。
カメラ映像の角度が悪い。
順位がよく分からない。
アロンソは今何位?
コーナーを抜けたマシン達が、カメラで順位を判別しやすい位置に来た。赤いマシンは?
……
ここで一瞬の沈黙がありました。あるいは、沈黙のようなものを感じました。
そしてその沈黙の後、合わせたように皆が叫びだす。
実況の声だけじゃなくて、その奥からも声が聞こえる。観客の盛り上がる声。スペインの観客の声が、一気に押し寄せる。
「アロンソが前に出たーーー!!!」
短いストレートと2つのコーナーで、スペインの英雄は前の3台のマシンを鮮やかに抜き去った。完璧なスタート。それを見たスペインの観客が騒いでいた。僕も騒いでいた。
「なんやこいつ、ほんまにスペインの英雄やん…」
惚れた。僕はF1に惚れました。芸術的なスタートを決めた地元の英雄、それを自分のことのように喜ぶ観客。このスポーツ、めっちゃおもろいやん…!
F1を好きになった時のこと。
半年後、僕はこのスポーツを目指すようになった。
以上、わたぽんでした。ほなね!
わたぽんの簡単な自己紹介
わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら
ブログ「わたぽんWorld」について
僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!
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