因数と循環節の二分割和に関する研究の紹介
こんにちは、イギリスで大学生してるわたぽんです。
前回の記事では、数学の研究とはどういうものかを、今まで接したことがなかった人向けに紹介しました。
その上で、本日は僕が高校時代にしていた数学の研究内容の紹介です。研究タイトルは「因数と循環節の2分割和についての考察 」。科学系の発表会でポスター展示をしても、興味を示してくださったのは一部の数学関係者のみという代物でございます。
たしかに証明は難しい計算が一部出てくるのですが、基本的な性質は簡単。小学生でも理解できます。
小学生でも理解できる性質が、まだ未熟な形で残っている。面白いと思いませんか?
レポートではなく、あくまでブログ。今回もかるーくかみ砕きつつ紹介してきます。それでは、まずは「循環節の二分割和」とは何なのかからどうぞ。
循環節の二分割和とは?
そもそも「循環節の二分割和」とは何者なのか?この研究のメインキャラクターである彼を理解するには、実例を見るのが一番です。
- 分数「1/7」を小数する
→1/7 = 0.14285714285714… - 一生続きます
- しかし小数点の後は、同じ数列の繰り返し「循環節」があります。
→1/7の循環節は「142857」 - 循環節を二つに分けます。
→142 857 - 足します。すると…?
→142 + 857 = 999 - 同じ数字が並ぶ!
これが「循環節の二分割和」です。循環節を二分割にして足した答え(和)なので、こう呼ばれています。
この「循環節の二分割和」なんですが、他の分数でも結構似た結果がでてきます。
・1/11 = 0.09090…
→循環節:09
→0 + 9 = 9
・1/13 = 0.07692307692…
→循環節:076923
→076 + 923 = 999
しかし循環節が奇数桁で二つに割れないもの、割れても乱雑な数列にしかならない例もあります。
この差はいったいなんなんでしょうか?
というわけで、1/3 ~ 1/300までを計算し、循環節の二分割和がどのようになるか、証明は可能なのかを模索したのが、僕の研究のメインテーマです。(分子は1に固定してます。)
重要なワード:記数法
この研究では、記数法という考え方がたくさん出てきます。しかし構える必要はありません。小学校でやった、10進法とか2進法なんかのことです。
10進法、2進法とは?
簡単に書くと、10進法では0~9ですべての値を表すのですが、2進法では0と1だけで表します。
例えば、
10進法:0, 1, 2, 3, 4…となるのが
2進法:0, 1, 10, 11, 100…
と、同じ大きさの値でも、表現方法が異なります。この記数法を、循環節の計算に用いました。
3進法での計算
例えば、3進法での1/7の計算はこのようになります。
1/7 = 0.102120
→ 102 + 120 = 222
循環節の二分割和には、9の代わりに2が並びました。僕たちが普段使っている10進法だけでなく、他の記数法でも循環節の二分割和が成り立つんです。
実は、10進法において、1/p (p = 素数)の場合、循環節の長さが偶数桁であれば、循環節の二分割和に9が並ぶは既に証明されていました。大昔の、たしかMidyさんという方が。
しかし当時、他の記数法では、まだ誰も循環節の二分割和の証明、一般化をしていなかったのです。
僕はここをつきました。
g進法において、循環節の二分割和に(g – 1)が並ぶ場合
g進法とは、すべての記数法を一般化した呼び方です。gは10でも23でも、なんでもいいです。
僕は、g進法(g = 3, 6, 7, 9, 10)においての1/2 ~ 1/300を研究対象とし、これらの分数の循環節の二分割和に、何か法則性はないかを調べました。計算には数学ソフトウェア、Mathematicaを使用。
そして嬉しいことに、多くの循環節の二分割和に(g – 1)が並ぶことが分かりました。
例えば10進法では9が並び、5進法では4が並びました。
これらを分析すると、ある一定の法則性が見えてきました。
a/b(b = pk, 4, 2pk p = 奇素数)をg進法において小数にすると、循環節の長さが偶数桁の場合、2分割和には(g – 1)が並ぶ。
堅苦しい言い方ですが、これが循環節の2分割和の最も基本的な定理です。そして、僕が証明できたのはこの定理。
証明は長いので省きます。A4の紙で3ページ分ありました。
他にもいくつか循環節の二分割和に(g – 1)が並ぶ例はありましたが、それも省いて次に行きます。(g – 1)以外の数が並ぶ例もあったのです。
循環節の二分割和に(g – 1)以外が並ぶ例
分かりやすくするため、ここからは10進法を中心にお話ししましょう。
先ほどまでは、循環節の二分割和に9が並ぶ場合の話をしていたのですが、他にも、3が並んだり、7が並んだりする例がありました。割合で表してみると、
- 2分割和が成り立つもの … 175個のうち、
- 9が並ぶ…125個 ⇒ 71.4%
- 8が並ぶ…1個 ⇒ 0.6%
- 7が並ぶ…2個 ⇒ 1.1%
- 6が並ぶ…20個 ⇒ 11.4%
- 5が並ぶ…2個 ⇒ 1.1%
- 4が並ぶ…2個 ⇒ 1.1%
- 3が並ぶ…19個 ⇒ 10.9%
- 2が並ぶ…2個 ⇒ 1.1%
- 1が並ぶ…2個 ⇒ 1.1%
圧倒的に9が並ぶ確率が高かったのですが、他にも万遍なく散らばってます。特に注目すべきは、3か6が並ぶ確率も、そこそこ高いこと。3と6は、9の因数 (= 3)の倍数でもあります。
他にも調べてみると、9以外の数が並ぶ場合は、分母がすべて3の倍数であることが分かりました。この気付きをまとめると、
循環節の二分割和に9が並ぶ分数を1/Nとすると、二分割和に3か6が並ぶ場合は(1/3N)であり、さらに(1/9N)の二分割和には1、2、4、5、7、8のどれかが並ぶ。
ということです。
例えば、1/7の循環節の二分割和は999でした。
そこで1/(3*7) = 1/21の循環節の二分割和を計算すると、666になります。
さらに1/(9*7) = 1/63の二分割和は、888となります。
しかし今のままでは、1/3Nの循環節の二分割和には3か6が並ぶということが分かっても、どちらの数が並ぶのかは、ハッキリ言えていません。
この分類を可能にしたのが、合同式です。
合同式による分類
合同式とは、割った数と余りで数を表したものです。
例えば、「1 mod 3」と書くと、「3で割った時の余りが1の数」を表します。つまり、4や7が当てはまります。4/3、7/3の余りは1なので。
この合同式が、分類に一役かってくれました。以下、箇条書きで分類結果を書いていきます。
1/3Nの場合、
- N1 ≡ 2 mod 3 … 3が並ぶ
- N1 ≡ 1 mod 3 … 6が並ぶ
1/9Nの場合、
- N1 ≡ 2 mod 9 … 1が並ぶ
- N1 ≡ 1 mod 9 … 2が並ぶ
- N1 ≡ 5 mod 9 … 4が並ぶ
- N1 ≡ 4 mod 9 … 5が並ぶ
- N1 ≡ 8 mod 9 … 7が並ぶ
- N1 ≡ 7 mod 9 … 8が並ぶ
証明はできてませんが、これにて10進法においての循環節の二分割和に何が並ぶかは、だいたい分かったことになります。(繰り返しますが、だいたいです。少ない数ですが、いくつか分類できていない数もあります。)
他の記数法でも、同じように素数と因数に注目すると、分類が比較的うまくできます。
奇数進法では少しややこしいものがありますが、偶数進法はかなりうまくいきますよ。
おまけ:循環節のm分割和とか
さてさて、本研究はこれで終わりなんです。が、いくつか他の興味深い性質も見つかりました。その一つが、「循環節のm分割和」です。
ようは、2分割和の代わりに3分割和、4分割和としても、同じ数が並ぶ場合があるよーってことです。
例:1/7の循環節=142857
→三分割和にトライ!
→14 + 28 + 57 = 99
→9が並んだ!
という感じです。誰か、数学の研究してみたくなればどうぞ。
他にも、「いつ循環節の長さが偶数桁になんねんー??!」とか、「例外てなんやねんー???」とか、色々調べることあります。「プログラム作れるんちゃう?」という方も、ぜひトライしてみてください。ゲーム、暗号の舞台裏で使えるかもしれませんよ。
わたぽんのまとめ的なにか(とプレゼント)
なにはともあれ、この研究は、当時の僕の数学教師のサポートなくして、仕上がりませんでした。特に最初は、数学の研究がサッパリ分かってなかった僕に、色々教えてもらったり、数学の書籍をいくつかおすすめしていただきました。また母校戻ったときにお礼言わないと。
(この本が証明の役に立った↓)
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また、循環節の二分割和は一般的な性質ではなかったため、下調べにてこずりました。この記事が、いくらかでも他の方の研究のヘルプになると嬉しいです。
そして、乱雑ではちゃめちゃな研究紹介を最後までお読みくださった方に、ささやかなお土産を。
以下のリンクより、僕の書いた最終研究レポートを読むことができます。おすすめポイントは、
- ブログよりも論理的な流れ
- 証明の細部
- 分類の細かいところ
なんかが、読めることです。
「今日はかるく数学の論文読みたい気分やぞ」という時におすすめ。曇った日とかにありますよね。
レポート(PDF):「因数と循環節の二分割和に関する考察」
以上、わたぽんでした。ほなね!
わたぽんの簡単な自己紹介
わたぽん(@wataponf1_uk)
高校生の時に「F1マシンをデザインしたい!」という夢を抱き、F1の中心地:イギリスへ。サウサンプトン大学で宇宙航空工学を専攻中。未熟で失敗ばかりするも、その度に這い上がってきた。そして渡英4年目には、念願であったF1チームでのインターンも獲得。自分と未来を信じて、夢は叶えられると証明したい。詳しいプロフィールはこちら
ブログ「わたぽんWorld」について
僕、わたぽんの「F1のエンジニアになる」という夢を叶える道を綴るブログ。2014年に運営開始。夢に近づけば近づくほど、更新頻度が減っていきます。
テーマは夢とイギリス留学。僕の生き方が励みになると言っていただくことが増えてきて、とても嬉しいです!
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